140 / 142
39話
「好きになる必要なんて...
ないと思います。」
「......。」
「好きじゃないなら、
好きじゃないでいい...
返事ができないなら、
それだって仕方ないです...」
僕だって、
そんなことくらい分かってる。
誰かを好きになったからって、
同じ気持ちを返してもらえるわけじゃない。
「でも...」
手の中の封筒が、
小さく震える。
「気持ちまで...
なかったことにする必要はないじゃないですか...」
「...だから、何の話を――」
「好きな人に傷つけられる気持ちが...
あなたに分かりますか?」
「......。」
言葉にした瞬間、
胸が、
ズキッと痛んだ。
...違う。
今のは、
この手紙を書いた人たちのことじゃない。
「分からないですよね...」
「お前――」
「僕の気持ちなんか...
分からないくせに...」
「...お前の?」
「っ...」
その言葉に、
ハッとした。
僕の...?
何を、
言ってるんだ。
「......。」
違う。
違う違う違う。
今の壱哉さんには、
何の関係もない。
あれは、
ずっと先の話。
この人がまだ知らない、
僕だけが知っている過去。
それなのに、
一度溢れ出した感情は、
止まってくれなかった。
「...嫌いなら...」
「...?」
「嫌いなら...
嫌いって言ってください...」
『お前なんか、好きだと思ったことは無い。』
「そうしたら...
諦められるかもしれないのに...」
『飽きた。』
「あなたにとっては...
遊びかもしれない...」
『遊びだった。』
「でも...」
視界が、
滲んだ。
「僕にとっては...
そんな簡単なものじゃなかった...」
「......。」
「辛くて...
苦しくて...」
忘れたかった。
全部、
忘れてしまいたかった。
だから、
逃げた。
この人を好きになる前まで、
逃げてきた。
「好きだって伝えることも許されなくて...」
声が、
震える。
「返事すら...
もらえなくて...」
「......。」
「それが...」
頬を、
涙が伝った。
「どんな気持ちか...
あなたに分かりますか...?」
「......。」
壱哉さんは、
何も言わなかった。
ただ、
僕を見ていた。
「...分からないですよね。」
当たり前だ。
分かるはずがない。
だって、
この人は何も知らない。
僕が、
どれだけこの人を好きだったか。
どれだけ幸せだったか。
どれだけ傷ついたか。
それでも、
嫌いになれなかったことも。
「......。」
その時――
壱哉さんの手が、
僕の頬へ伸びてきた。
「...っ!」
パシッ
考えるより先に、
その手を払い除けていた。
ともだちにシェアしよう!

