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第2話

 ふわりと身体が軽くなったような気がした。あれほど全身が燃えるようだったのに、今は冷たい風が身体を包んでいるような気がする。深い深い暗闇の中にあった意識がどんどんと浮上してきて、自然と瞼が持ち上がった。  ぼやけた視界が徐々に鮮明になってきて、美しい白亜の天井が見える。どうやら自分はとても天井の高い部屋でフワフワの何かに寝かされているらしい。腕に違和感を覚えて視線を向ければ、そこには点滴が挿されていた。 「おや、目が覚めましたか?」  自分に何が起っているのかわからずボンヤリとしていれば、そう唐突に声を掛けられた。驚いて見れば、そこには黒く長い服を纏い頭から白い布を被っている男がいる。だがその恰好に何故だか違和感は覚えなかった。男は神経質そうな顔をしながら近づいてきて、額に触れてきた。 「ここはアミール――ナウファル殿下の宮殿です。お前はサテュですね? 名前は言えますか? どうしてあのような所に縛られて捨てられていたのです?」  男の言うことはまるで呪文のようだった。ゆっくりゆっくりと記憶を手繰り寄せる。  アミールは確か、王子……だった、か。ナウファルは、わからない。サテュというのは何であろうか。名前を尋ねているというということは、サテュが己の名前でないことだけはわかった。  首を傾げる己に、男は眉根を寄せる。 「自分の名前もわからないのですか? あの様子では主人がいなかったわけではないのでしょう?」  主人? 何のことを言っているのだろう。 「……わか……り、ませ……」  眠っている間に水でも飲ませてもらったのだろうか、僅かにではあるものの声が出るようになっていた。  男は深々とため息をつき、仕方がないと側に置いてあった小さなベルを鳴らした。すぐに白いワンピースのようなカンドゥーラと呼ばれる服を着た男達が数人やってくる。 「このサテュを綺麗にして身支度させなさい。アミールの元へ連れてゆきます」 「はい、かしこまりました」  頭を下げる男達は、ここの使用人なのだろうか? 確かに目の前の男よりも服装は質素だ。そんなことを考えていると男はいつの間にか踵を返して部屋を出ており、代わりに使用人たちが近づいてきてゆっくりと点滴が外され、身体を起こされた。  意識のない間に湯でも浴びたのだろうか、身体は綺麗になっていたが使用人たちから蒸しタオルで拭かれて更にさっぱりとする。背の中ほどまである髪は何度丁寧に櫛梳られても真っ直ぐにはならず、艶はあるというのにクルクルとうねっていた。太くごつごつとしているのに使用人の手は器用に髪を僅かにつまんで結び、頭を動かすたびにシャラシャラと小さく音がなる髪飾りを付けた。薄桃色のフワフワヒラヒラしたワンピースを着せられ、腰に金の輪が連なったベルトを付けられる。なんだか古代の踊り子のようだ。

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