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第3話
靴は与えられず、そのまま迎えに来た先ほどの男に連れられて部屋を出る。王子の宮殿というだけあって廊下も広々としており、磨き抜かれている。男と共に奥の部屋へと入れば、そこにもまた無駄に広い空間が広がっていた。クッションが敷き詰められた場所にゆったりと座る男は、ここまで連れてきた男よりも一層豪奢な衣を纏っている。察するに彼がアミールなのであろうか。
「アミール、身支度をさせて連れてまいりましたよ。どうやら何も覚えておらぬようです。名前さえも」
傍らにいる男がそう言う。やはりゆったりと座っている目の前の男がアミールなのだ。
「そうか、ご苦労だったなサーイブ。こちらへ」
傍らの男はサーイブというのか。そう頭の中で考えていれば、トンと背中を押された。
「何をしているのです? はやくアミールの元へ」
早く行けといわんばかりに背を押されて、おずおずとアミールの元へ足を進める。すぐそばに来た時、膝に衝撃が走ってカクンと膝をついてしまう。
「サテュがアミールを見下ろすなど不敬ですよ」
怒ったようにサーイブが言う。どうやらサーイブが後ろから膝を折らせたようだ。倒れ込むように膝をついたからか、すぐ近くにアミールの顔がある。褐色の肌に凛々しい眉を持つ美丈夫だ。
「これはまた、まるで宝石だな。白い肌に青みがかった黒い瞳、美しい黒髪か。これほどに美しければさぞ愛玩されて閉じ込められるであろうに。あのように打ち捨てられるなど、いったい何をやらかしたのやら」
ん? と器用に片眉を上げて、顎の下をコショコショと撫でてくるアミールを見上げることしかできない。彼が何を言っているのか、言語としては理解していたがその意味を理解できていなかったからだ。何をやらかしたのかと言われても、何にも自分の中に残っていないのだから答えようもない。
「できればアミールも早々に捨ててくださるとありがたいのですがね。あのような姿で打ち捨てられるなど、嫌な予感しかしません」
サーイブはやれやれと難しい顔をしてため息をついている。そうは言ってもアミールである彼がこのサテュを手元に置くのがわかっているのだろう。
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