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第4話
「このような白い肌で外に捨て去れば早々に死ぬ定めだ。現に危なかったのだろう? サテュは愛玩されるために作られた亜種。人間の都合で作り上げたというのに死ぬとわかっていながら放り出すなど無慈悲な真似はできないな。それにサーイブ、見てみよ。これほど美しいというのに、何一つ知らぬ赤ん坊のようだ。この子は愛されるために存在する」
アミールは愛しむようにそっとサテュの頬を撫でた。
「幸いこの宮殿にサテュはおらぬ。いじめられることもあるまい」
何もわかっていないサテュにクスリと笑んで、アミールはサテュを抱き上げて己の膝に座らせた。
「私はこのファルトフの第五王子、ナウファル・ビン・アシード・アル・タリファン。ナウファルでもアミールでも好きに呼ぶといい」
なるほど、アミールの名前がナウファルだったのかとサテュは頷く。
「だがお前にも名がないと少々不便だな。……よし、お前のことはこれからクティータと呼ぼう。可愛い私の子猫だからな」
「そのまんまですね」
クティータとは〝子猫〟という意味だ。サーイブの言う通り、とても安直な名前である。
「サーイブ、クティータに似合いそうな首輪を幾つか取りよせよ。この子はまだ赤ん坊だからな、迷子にならないよう鈴の付いた首輪だ」
意識を失う前、〝大切な大切な、ネコとして〟と聞こえたような気がしていたが、どうやらそれは気のせいではなかったようだ。クティータと名付けられたサテュはビクリと肩を震わせる。己が畜生として扱われる、その恐怖だったのか。
クティータが怯えていることに気づいたのか、ナウファルは宥めるようにクティータの顎の下をコショコショとくすぐる。
「安心するといい。私はいじめるのは好きじゃないからな。溺れるほどの愛情を与えよう、もう私なしではいられないほどに甘やかしてやる」
己は猫じゃないとクティータはフィッと顔を背けて顎をくすぐる手を避け、ナウファルを睨む。追いかけるように頬に伸ばされた手の指に思わず噛みついた。
「貴様何をッッ!!」
サーイブが気色ばんでクティータを掴もうとするが、当のナウファルがそれを止めた。強い力で己の指を噛むクティータに笑みを浮かべる。
「噛みたければ噛めばよい。噛もうと、引っ掻こうと、私はお前を甘やかすし、逃がしもしない。お前は可愛い可愛い産まれたての〝クティータ〟なのだから」
噛まれて指から血を流しているのに微笑んでそんなことをいうナウファルが、クティータの目には狂気のように映った。己は恐ろしいものに縋り、命を救われたのかもしれない。恐怖に思わず顎の力を弱める。それにまたにっこりとナウファルは笑った。
「いい子だ」
その言葉が、見つめてくる瞳が、恐ろしかった。
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