2 / 71
2※
他のギルドに入るというのも考えた。けれど、駄目だ。俺は、あいつとじゃないと組める気がない。
現実的に考えても、魔王を倒すには強い仲間が必要だ。それを兼ね揃えていたのがあいつだった。あいつは強い。誰よりも聡明で、おまけに人を惹き付ける力がある。
そして周りの奴らもだ。けれど俺にはなんの特技もない。今までこんな俺をパーティーに置いていたのは本当にあいつの温情だったのだ。
考えれば考えるほど情けなくなった。
自分には何もないのだと知らされる。
あいつは戦い続けるのに、俺はただ漠然と生きていけというのか、あいつは。
それこそ、鬼だ。あの日、あのとき、魔物に殺されていた方がまだいい。ぬるま湯に浸かっていられるわけがない。
あいつが俺を見限ったのだとしてもだ、俺は、あいつを憎むことはできなかった。
もう一度、あいつに会って話そう。盗賊たちがいたときは話にならなかった。けど、二人きりになれば昔のあいつに会えるのかも知れない。
夜の風に当てられ、頭を冷やした俺は再び宿屋へと戻る。
宿屋、あいつは俺の部屋を取っていてくれたままだった。部屋に戻るフリをして、俺はあいつの、勇者の泊まる部屋に向かった。
夜は深い。もう眠っているかもしれない。そんな思いで扉を叩く。
「……俺だ。もう一度、話がしたい」
そう、反応のない扉に向かって声を掛ける。これで返事がなかったら、今日は諦めて部屋に戻ろう。そう、思ったとき。ゆっくりと扉が開いた。
「……入れよ」
まだ起きていたようだ。あいつは驚くわけでもなくただこちらを見下ろしたままそう俺を部屋に招き入れた。薄暗い部屋の中、あいつは戦術の本を読んでいたらしい。広くはない部屋には一人用の椅子とベッドくらいしか座れそうな場所はない。ベッドに腰を下ろす勇者。俺は、立ったままやつを見た。
「さっきの件だ。……追放の話がしたくて、きた」
「お前が何言っても俺は変えるつもりはない。お前は、パーティーから外す。これは決定事項だ」
「……っ、わかってる」
「……じゃあ、なんで」
「荷物持ちでも、雑用でもいい……俺を、一緒に連れて行ってくれ。頼む」
恥なんて、なかった。これしかなかった。戦線に立たなくてもいい、それでもいいから、俺を、討伐隊に入れてくれ。冷たい床の上、突然土下座をする俺に流石のあいつも予想しなかったらしい。その目の色が変わる。
「おい……」
「お前らがクエスト受けてる間、武器代や装備代ぐらい稼ぐし、宿代が勿体ないっていうなら俺だけ野宿でもいい。だから、頼むから俺を連れて行ってくれ。邪魔はしない。けど、魔王を倒す手伝いはさせてくれ」
「……っ、お前……」
「そうじゃないと……俺……っなにもないんだ」
あいつだから、あいつだからこそこんなことが言えた。情けないと笑われようが、引かれようが、良かった。こうすることしかできない。俺は魔道士のように頭もよくない。盗賊のように機転も利かないし、騎士のような硬さもない。だから。と、額を床にこすり付ける。あいつがどんな顔をしているのか想像すらできない。
「本気で言ってるのか、お前」
そう、確認するような勇者の声は微かに震えてるようだった。引かれているのだろう。当たり前だ。突然土下座されたら誰だって怖気づく。それでも、なりふり構っていられなかったのだ。
「……っ、頼む、この通りだ」
「……」
「不満も、愚痴も言わねえ。あいつらとももう揉めねえから、頼む……」
泣きそうになるのを堪え、俺は勇者が反応するまで頭を下げ続けた。許しをもらえるまでここを動く気はなかった。目を瞑る。怖い。心臓がうるさい。けど、こうするしかないのだ。
「……わかった」
そんなとき、先に根負けしたのはあいつの方だった。顔を上げたとき、目の前には仁王立ちになったあいつがいた。
「お前がそこまで言うなら、パーティーに残す」
「……っ!ほ、本当か?!」
「ああ。その代わり、戦線からは外す。お前は荷物番だ」
「ああっ、わかった、それでもいい。俺は……」
「それと」
と、伸びてきた手に髪を掴まれる。そのまま後ろ髪に指を絡めるように後頭部を掴まれたとき、目の前にあいつの整った顔が近付いた。
「お前には性処理をしてもらう」
「せ、い、しょり……?」
聞き慣れない単語に、思わず口に出して反芻する。舌打ち混じり、あいつは深い溜息をつき、そして次の瞬間、視界が影に覆われた。
「っ、ふ……ッ!」
柔らかい唇の感触。さらりとした前髪が額に触れる。こそばゆさを覚えるのも束の間、ぬるりとした舌に唇を舐められ、そこで自分がキスをされていることに気付いた。
本来ならば愛し合った者同士がするという、唇と唇のキス。それを、こいつは容易くして退けるのだ。
「おい、なに……ッ?!っ、ん、ぅ……ッ!」
離れようと胸を押し返すが、手首ごと取られ、更に深く角度をつけて唇を重ねられる。ぢゅ、ぢゅる!と音を立て、唇を吸われ、薄皮ごと食う勢いで貪られる。息が苦しい。想像していたキスは、もっと神聖なもので、触れるだけの優しいものだった。けれど、現実はどうだ。
餌を前にした獣のような勢いでこいつに食われてる。
「ん゛っ、ぅ、う゛……ッ!」
文句を言おうと開いた口の中、肉厚な舌を捩じ込まれ、舌の根から先っぽまでをその舌に絡め取られる。濡れた粘膜同士を執拗に重ね合わされ、お互いの唾液が口の中でぐちゅぐちゅに混ぜ合わされるのだ。
まるで違う生き物が口の中にいるかのような気持ち悪さに堪えられず顔を逸らそうとするが、あいつはそれを許さない。何度も顎を捕らえ、後頭部を鷲掴みにし、深く、喉の奥まで舌で愛撫してくるのだ。
「っ、ふ……ぅ……ッ!」
じんじんと痺れていく頭。力の強さは歴然だ。引き離そうとしても、がっちりと固定する手は離れない。息が苦しい。それ以上に、心臓も。何をされてるのか理解できない。脳がそれを拒否するのだ。やめてくれ、そう思うのに、あいつはやめない。ぢゅぽぢゅぽと音を立て出し入れされる舌に口いっぱい犯される。粘膜という粘膜をしゃぶりつくされ、唾液を流し込まれ、飲まされる。受け止めきれなかったどちらのものかすらわからなくなった唾液が垂れ、首筋へと落ちるそれをやつは舌で舐め取るのだ。ようやく唇が離れたにも関わらず、言ってやりたかった文句もなにも頭に出てこなくて、ただ呆然とする俺をやつはベッドへと引きずり落とすのだ。
安いベッドのスプリングが軋む。その上に、あいつは覆いかぶさってくるのだ。
「……お、まえ……っ」
「娼婦くらい、わかるだろう?お前をうちのパーティーに入れる代わり、お前はこういうことを毎晩、俺が命じたときに、いつでもしてもらう」
「お前にそれが耐えられるのか」と、あいつは言う。生地の薄い衣類越し、臍の上の筋肉の筋を指先でなぞられた。理解するにはそれだけで十分だった。
娼婦がなんなのか、実物を見たことない俺でも知ってた。村の大人の男たちが笑って教えてくれた。大きな街には金さえ払えば好きにしていい姉ちゃんがいると。大人になったらお前も相手してもらえと、笑ってからがれたことがある。この年にもなれば、流石にそれがどういうものなのか理解できた。できないのは、俺にそれをやれというこの男の思考だけだ。
「っ、ど、うして……こんな……っ」
「なんでもするから仲間に入れてくれと言ったのはお前の方だろ。……別に俺はお前がいなくても構わない。荷物が減るだけだ」
「……ッ!」
「やるのか、やらないのか」
「できないのなら、今すぐこの部屋から出ていけ」聞いたことのないような冷たい声に目の前が暗くなっていく。部屋の灯りが揺れる。周りが寝静まった部屋の中、自分の心臓の音だけがやけにうるさく響いた。
「……ッ、やる」
「……」
「やれば、いいんだろ……」
自分が何言ってるのか、理解していた。それでも、こいつに取り入れるにはこれしかないのだ。恥はとっくに捨てたつもりだった。それでも、濡れた唇に、体を這う指に、神経が反応する。
「……お前は、本当に馬鹿だな」
「……ッ」
「舌を出せ」
その声に、びりっと脳の奥が痺れる。俺は、こいつの性欲を処理することが役目なのだ。繰り返す。
本当だったら、耐え難い苦痛だ。それでも、相手がこいつだからまだましと思えるのかもしれない。……いや、違うな。こいつだからこそ堪えられないものもある。
恐る恐る開いた口から、窄まっていた舌をちろりと出せば、あいつに舌ごと咥えられた。
「っ、ぅ……ん゛ぅ!う……ッ、ぶ、ぅ……!」
じゅぽ、じゅる、と濡れた音が響く。性器かなにかのように先っぽを執拗にしゃぶられ、嬲られ、粘膜を味わいつくされるのだ。獣じみた執拗なキスに体勢を保っていられるほどの力はなかった。押し倒されたまま、反応しそうになる体をシーツに縫い付けられ、覆いかぶさるように何度も深くキスをされるのだ。
最初はただ口の中にナメクジが這ってるみたいで気持ち悪かったキスも、次第に頭の芯がじんわりと熱くなってして、ふわふわしてくる。四肢から力が抜けそうになったところに股の間に差し込まれた膝頭にやわらかく下腹部を刺激される。閉じようとしてと股の間のあいつの膝が邪魔で閉じられない。それどころか、玉ごとふにふにと柔らかく刺激されればそれだけで腰が震えた。
「っ、ふ……ぅ……ッ」
熱い、体が。頭がふわふわしてくる。くちゅくちゅと音を立て舌を重ねられる。堪えられないはずなのに、気付けば俺はあいつの真似するみたいに舌を絡めていた。吐息が混ざり合い、視界が霞む。熱い。こいつが上手いのか、わからない。わからないけど、変な気持ちになってくるのだ。
「……っ、ん、ぅ……っ」
あいつの指が、胸に伸びる。衣類越しに胸を揉まれ、思わず体がびくりと震えた。筋肉しかない、普段なら触れられようが見られようがなんともなかったのに、こいつに触られるだけで反応してしまうのが恥ずかしかった。
「そ、こ、触らなくていいだろ……っ」
「お前は、俺の言いなりになるって言ったよな」
「……ッ!」
「服の裾を持ち上げろ、胸が見えるまでだ」
「……ッ」
こんなことしてなにになるのかわからない。こいつは、楽しいのか。思いながら、俺は言われるがまま手にとった衣服の裾を持ち上げる。腹部を通り過ぎ、胸元まで上げる。すーすーする。それ以上に、もう脱いだ方がいいのではないかと思えるほどのところまできたとき、俺は手を止めた。
「これで……いいのか?」
「ああ。……そのままじっとしてろ」
なんで、という言葉は声にならなかった。まじまじと至近距離で俺の体を見詰めてくるこいつの視線が耐えられなかった。
鍛錬しかしてこなかった体は、女のように柔らかい肉もなければ触っても筋肉の感触しかないはずだ。なにが面白いんだ。思いながらも、じっとその視線を堪えていたとき。
剥き出しになっていた突起に、ぬるりとしたものが触れる。それが舌だと気付いたときには遅かった。ぐるりと突起周りの乳輪を舌の先っぽで舐められる。唇で挟むように咥えられ、そのまま突起ごと吸われた瞬間、ぴりっとした刺すような刺激が走ったのだ。
「ふ、……っんぅ……っ!」
据われながら、尖り始める先っぽを舌の先で嬲られる。根本から先端、その側面をざらりと舌が這うだけで頭の奥が掻き回されるように思考が乱れた。こんなの、大したことではない。モンスターに噛み付かれた方が痛い。そう思うのに、村の娘たちから人気だったあいつが、俺の胸に顔を埋めて乳首を吸っている。その絵面だけでどうになりそうだった。
「っ、ん、ぅ……っん、ぅ……ッ」
犬に舐められてると思えばまだマシだ。そう自分に言い聞かせて、耐える。けれど、緩急つけて舌を這わせ、まるで飴玉かなにかのように舐るその舌の動きは明らかに犬とは違う。仰け反る胸すらも抱き込んで、逃がすまいというかのように更に甘噛みしてくるのだ。
くすぐったいだけだ。こんなの。自分に何度も言い聞かせた。片方の胸をくすぐられながら、執拗に乳頭を虐められる。何も出やしないのに、何度も、ふやけるまで嬲るのだ。濡れた音が部屋に響く。頭の奥がぼんやりしてきて、気づけば全身の血液は俺の胸と下腹部に集まっていた。テント張った下半身が目に移り恥ずかしかったが、それはこいつも同じだった。
「い、つまで……やってんだよ、これ……」
「お前が乳首で射精できるようになるまで」
「っ、は……ッ」
馬鹿なことを言うなと睨むが、やつは笑っていない。
――本気だ。血の気が引いた。執拗にしゃぶられたせいか片方の乳首だけが不自然に赤く腫れ上がっていた。そこにふっと息をふきかけられたとき、びくんと胸が震えた。
「っ、ぁ……!」
咄嗟に、口を抑えるが、遅かった。情けない女みたいな声が出た瞬間、あいつの目に見たことのない色が滲んだのだ。
「っ、いま、のは……ちが……っん、ぅ……!」
恥ずかしい声を聞かれ、誤魔化そうとするのも束の間。あいつは無視して俺の胸を揉み扱く。そしてその硬くなった指先で両方の乳首をぎゅっと引っ張られた瞬間、ぞくぞくっと背筋に嫌なものが走った。
「っ、ん……ぅ、……っ、やめ、ろぉ……っ」
「っ……なら、部屋から出ていくか?」
「……っ」
こいつは、こんなに性格が悪いやつだったのか。
ほんの少しでも、本当は全部演技じゃないのか。そう思っていた自分を殴りたくなる。
耳を舐められ、裏すらもねっとりと舐られればそれだけでどうにかなりそうだった。俺は、言葉を返す代わりに首を横に振った。あいつは何もいわずに、指の間に挟まったそこを柔らかく扱き始めるのだ。乳首の側面から先っぽを引き伸ばすように撫でられ、先端の凝りを転がされる。こそばゆいだけだ。自分に言い聞かせる。けれど、ずっと触られてるだけなのに内側から妙な感覚が湧き上がるのだ。下半身がもぞもぞする。ちんぽ、擦りてぇ。なんて、猿みたいな思考が芽生えた。あいつにバレないように恐る恐る下半身に手を伸ばしたとき、乳首を抓られた。先端をちょっと強く潰されただけにも関わらず、鋭い針が刺さったような刺激に堪らず声が漏れた。
「自分で触るな」
「っ、だ、って……」
「言っただろ。……お前は俺の言いなりだって」
くにゅ、と乳首を揉まれ、背筋に無数の虫が這うような感覚に目が眩んだ。……もどかしい。イキたい。もっと強く触ってほしい。じれったさに堪えられず、体を何度もねじる。次第にあいつの指の動き一つ一つが鮮明になっていくのがわかった。焦らされ、より鋭利になる五感。汗が滲む。乳頭ばかりを虐められ、声が漏れる。下半身が痛い。勃起が収まらない。少し動けば下着の中でぬるりとした感触がした。すげえ、恥ずかしい事になってる。自覚はあった。けど、それはこいつも同じだ。勃起した下半身同士が触れ合うだけで呼吸が乱れた。直接触ってほしい。こいつだってそれは同じだろうに。
「っ、は、ぁ……っ、くそ、ぉ……っ」
何もできない。ただ、好き勝手体を弄ばれる。触れられた箇所が焼けるように熱く、甘く疼くのだ。腰が揺れる。あいつに擦り付け、触ってくれと強請ってしまう。それでもあいつは俺の下半身に触れてくれない。ねちねちと執拗に乳首だけを弄られどれほど経ったのか、時間感覚すらわからなかった。ただ、ぼんやりと痺れた思考はなにも考えられなくて、開きっぱなしになった口からは荒い獣じみた呼吸だけが漏れる。
「くそ、……くそ……っ」
なにも、ない。擽ったいだけだ。こんなの拷問だ。汗が滲み、膨らんだ胸を掻き破りたいほどの熱に駆られる。もっと、そんなに優しく触れないでくれ。もっと乱暴に触ってくれ。そんなこと、死んでも言えない。小刻みに痙攣する体はじっとりと汗で濡れていた。それにも関わらず、ぷっくりと主張し続けるそこを舐められた瞬間、びくん!と上半身が跳ね上がった。
「ぁ……」
やばい、と思ったときには、手遅れだった。俺を上目に見上げたまま、あいつは最初に比べて明らか大きく勃起したそこにキスをした。柔らかい皮膚同士が触れるだけで、その摩擦に痺れるような刺激が走る。
「っ、ふ、ぅ……ッ」
「気持ちいいのか?」
「き、くな……っ」
ざらざらとした舌で柔らかく潰すように抑え込まれ、執拗に硬い舌先で嬲られる。くすぐったい、違和感だけの最初とは違う、明らかに違う感情が胸の奥から込み上げてくる。
「ぅ、あ……ッ、や、も……っ」
「っ、は……声が、甘いな。……お前、そんな声も出せるのか」
「っん、ぅ、や、めろ……やめろ、きくなぁ……っ」
あいつの頭を掴んで引き離そうとするが、ぢゅる!と音を立て吸われた瞬間、下半身が跳ね上がる。鋭い快感に支配され、射精にもよく似た感覚に囚われるのだ。
「な、に……っ」
「……っは、お前……」
「っ、お、れ……なに、なんで……」
「お前、才能あるぞ」
なんの、とは言わなかったが、何を言わんとしていたのかわかった。びりびりと痺れる体。甘い余韻は確かに射精のそれによく似ていた。笑うあいつの声に、顔に血が昇る。浅い呼吸を整える暇もないまま、あいつは俺の唇を吸った。そして、そのままぴちゃぴちゃと舐め始めるのだ。
「ん……っ、ぅ……っ」
「っは、ん……ッ」
伸びてきた手は、ようやく俺の下腹部に触れた。胸が寂しいなんて思考を振り払い、俺は堪らずやつの腕にしがみつくのだ。早くしてくれ、と、自分の下着の中へと手繰り寄せれば、あいつは固唾を飲むのだ。そして、俺の下着を脱がしていく。裸を見せるのは初めてではない。川で泳いだこともあった。それでも、こんな風に至近距離で見せるのとではやはり訳が違う。ぴんと勃起した性器が邪魔で下着は簡単に脱げなかったが、それでも、ふるりと揺れながらも現れたそこにやつの視線が向けられる。やつの手のひらごと俺は自分の性器を握った。
「っ、はやく、してくれ……」
こんなこと、頼むこと自体どうかしてる。それでもこいつの言いなりとなった今、こいつの許可なしでは自分を自分で慰める事すらできないのだ。懇願する俺に、あいつは視線が釘付けになったまま、「ああ」と頷いた。
今なら言える。あのときの俺たちは確かに狂っていた。どうかしている。俺もあいつも、正気ではなかったのだ。
「ぁ、あ……っ、あ……っ」
先走りを絡め取るように性器を撫でられ、それだけで堪らなく感じてしまう。自分の手ではないだけなのに。普段は剣を握るあいつの手が俺のものを握ってる。その事実にとんでもなく興奮してしまうのだ。これも、全部こいつのせいだ。こんなこと、考えたこともなかったのに。
「すぐにイキそうだな」
「っ、ん、ぅ……ッ」
「けど、もう少し我慢しろ」
腿を撫でられる。そのまま足を開かされれば、恥ずかしい体勢のまま開かされた足の間に膝立ちになったやつは丸出しになった俺の下半身に触れたのだ。
玉の奥、その窄まりを指先で撫でられただけで声が漏れてしまいそうになる。
「待て、そこは……っ」
なんでそんなところに触れるのだ、と言いかけたとき、あいつは膨らんだ下半身から性器を取り出した。瞬間、溢れるように勢いよく飛び出したそれに思わず息を飲む。
俺の性器から拭い取った先走りを己の性器に塗り込むように這わせる勇者。赤黒く勃起し、太い血管が浮かぶ裏スジを眼前に突きつけられた俺はその場から動くことができなかった。いつも見たのは萎えていたところだけだ。けれど、いまは違う。隆々としたそれは幼い頃見たものとは違う。立ち込める雄の匂いに、鼓動が加速する。お互いの先走りで濡れ、より一層生々しく映るのだ。
「……お前は、娼婦だ。確かに俺はそういったな」
興奮している。鼓動までもが伝わってきそうなほどだった。滲む汗。目の前のそれから目を反らすことができなかった。急速に喉が渇いていく。
「お前のここに、俺のを挿入れる」
「……っ、う、そだろ」
「嘘じゃない」
「む、りだ、そんな……そんなの、入んない……っ」
無理だ、と繰り返す俺に、あいつは「入れる」とだけ呟くのだ。そして、逃げようとする俺の腰を捕らえ、閉じたそこに指を這わせる。濡れた指先で撫でられ、徐々に加わる力に指先は中へと侵入してくるのだ。
「っ、痛……っ、ぁ、や、め……」
「じゃあ帰れよ」
「帰る、場所なんてねえよ……っ」
「……ッ」
ぬぷ、ぬぷぷ、と、中を傷つけないようにゆっくりとそれでも、確かに固く閉じた筋肉を押し開くように中へと入ってくる太い異物に息が漏れる。一瞬、あいつの顔が歪んだ気がしたが、それも束の間のことだ。
「っ、ふ、ぅ……ッ、く……ぅ、んんぅ……ッ!」
声を殺す。唇を噛む。それでも息までも止めることができなかった。中を開かれる。口を開けば弱音を上げてしまいそうで、怖かった。俺には、ここしかない。こいつと側にいることしか。
「っ、ふ……ッ!」
太い関節を抜け、中へと咥えさせられる指はそのまま中で動き始める。最初は違和感。指の腹で臍の裏側を撫でられる。気持ち悪い、だけだ。こんなの。苦しいだけだ。目をぎゅっと掴み、息を吐く。どうせ、逃れられないのならせめて痛くしないでくれ。そう、訴えることしかできなかった。
「痛いか?」と耳元で囁かれ、首を横に振る。
「腹が、苦しい」
「……そうか」
やめるとは言わないくせに、人を心配するところはこいつらしい。今だけはその優しさがただ腹立たしかった。ゆっくりと抜き差しされる指に、摩擦される内壁。内側を擦られる都度違和感が走り、俺はただ枕にしがみついて堪えるのだ。
「っ、ん……ふ……ッ、ぅ……ッ」
ぬぷ、ぬち、と濡れた音が下腹部から響く。気持ちよくない。こんなの、気持ちよくない。さっさと突っ込んで終わらせてくれ。そう思うのに、こいつはそれをしない。丁寧に丁寧に一枚の花びらを開かせるように丁寧に解してくるのだ。だからこそ余計嫌だった。嫌でも慣らされていく。この異常な行為に。丁寧に、覚えさせられる。指の感触を、快感を。潤滑油を追加され、指を増やされる。圧迫感はあるが、死ぬほどではない。二本の指は左右へと押し開くように動き、そして、丹念に潤滑油を塗り込んでくるのだ。粘り気を孕んだ水音が響き、それは次第に早くなる。指の根本まで容易に飲み込むようになってしまった体に、呼吸は荒くなっていく。とめどなく垂れる先走りは俺の腹の上にみずたまりをつくっていた。それを拭うことすら許されず、俺はただされるがままにこの男に指の動きを覚えさせられるのだ。
「っふ、ぅ……ッ、ぅ、う……ッ!」
朦朧とする頭の中、ぱちゅぱちゅと音を立て中を何度も摩擦され、徐々に競り上がってきた快感が喉元までやってきてまた達してしまうと身構えたとき。指が引き抜かれた。そして、ぐっしょりと濡れた手を舐め、やつはそのまま開いたそこに自分の性器、その亀頭部分を押し当てるのだ。
「っ、ぁ……まっ、待て……」
「もう大分待っただろう、俺も、お前も……」
「っ、無理だ、むり、そんな、の入らな……」
「入れるんだよ」
無理だ、と答える声はかき消された。ず、とのしかかって来る体重に、埋め込まれるカリに、明らかに先程までの指とは質量も熱も違うその圧迫感に、声すらもでなかった。
「――ッ、ぁ、い、や、め……ッ」
「往生際が悪いぞ……ッ、お前はもう、俺のものだろ」
「っひ、ぎ……ッ!!」
入ってくる。熱く、硬い、熱した鉄棒のようなものが。体の中に。苦しい。痛い。それ以上に、直腸ごと引きずり出すようなその質量感に圧倒される。
ゆっくりと、蝕まれる。「息を吐け」と命じられ、はっ、はっ、と呼吸を繰り返した。それでも、逃れられない。
「ぅ、あ……あ、ぁ……ッ!」
「……っ、流石に、狭いな……力を抜け」
力を抜くって、どうやって。わからない。なにも、考えられない。ただ、熱い。苦しい。シーツにしがみついた。軋むベッド。あいつは苦しそうだった。ちっとも気持ち良さそうな顔をせず、息を吐くようにゆっくりと腰を落としてくる。ぬぷ、ぐぷ、と漏れた潤滑油が腰からシーツへと落ちる。そのまま、やつはゆっくりと肉癖を抉じ開けるように腰を動かし始めた。みちみちと抉じ開けられる。
誰にも、自分でも触れたことのないような場所をこいつに犯されている。女のように足を開かされ、喘がされる。自然と涙が溢れていた。屈辱だった。なにもかも勝てなかったやつに、屈服させられている自分が。自ら望んだことといえどだ。対等な立場でいたかった。戦友だと思っていた。けれど、それは俺の独りよがりだったのだ。その証拠にこの男は俺の中で尚も自身を大きくさせるのだ。
「っ、ぅ、く、ぅ……ッ!」
「っもう少しだ、今、半分まで入った」
まだ残り半分もあるという事実に何も考えられなくなる。震える体を抑え込まれ、逃げようとする腰を高く持ち上げられた。そして、そのままやつは腰をぐっと寄せた。ずずっと沈むブツに、頭が真っ白になる。呼吸することが精一杯だった。
「ふーっ、ぅ、……く……ぅ……ッ」
「っ、そのままだ……もう少し、我慢しろ」
もう少しって、どれくらいだ。なんて言葉も声にならなかった。あいつも声が震えていた。繋がった箇所は焼けるように熱く、感覚すらなくなってるようだった。それでも、ゆるく腰を動かし出すあいつに否応なしに体は反応する。内壁を慣らすように、ゆるゆるとピストン運動を始めるやつに俺は声を出すこともできなかった。濡れた音が腹の中で響く。飛び散る体液。視界が白ばむ。頭の中では警報が鳴り響いていた。逃げようとする体を上から抑え込まれ、犬のように覆いかぶさってきたやつはそのまま腰を動かすのだ。奥へ、本来ならば届くはずのないそこを亀頭の先っぽで柔らかく突かれるだけでびりっと電流が走るのだ。瞬間、自分のものではないような、獣じみた声が漏れる。
「待っ、ぁ゛、まって、たの、むッ、待っ、ぁ、あ゛ッ、ひ、ぐ、ぅ」
最初はゆっくりだったのに、次第に腰の動きは早くなる。肌を打ち付けられる度に震える喉からはみっともない声が漏れた、口を閉じる暇もなかった。抉じ開けられる。太く長い性器が出し入れされる度に何も考えられなくなる。へこへこと腰が揺れる。犬だ。盛りのついた犬。いや、まだ犬の方がましなのかもしれない。待ってくれ、と懇願するように目を向けるがやつは目が合うなり唇を重ねてくる。胸を揉まれ、唇を吸われながらも腰のピストンは止まらない。上半身を抱き起こされ、腿を開かされ、より深く挿入できる体位を探るように俺を抱き締め、背後から犯すのだ。打ち付けられる度に勃起した性器からは半濁の体液が飛び散る。声すらも出なかった。濡れた音。唾液。汗なのか涙なのかもわからない。粘った水音は激しさを増す。痛みや苦しさよりも、内臓を裏側から擦り上げられるその感覚の方が強くなってきてからは地獄だった。
「ぎ、ひッ!ィ、イクっ、むり、も、だめ、いくっ」
「……っ、ああ、いいぞ、好きなだけイケよ……ッ!」
「っ、ひ、ィ、ッ!」
何度達したかわからない。
眠気などなかった。ただ、獣のように交わる。飛び散る精液を拭う暇もなかった。何度中に出されたのかも何度外に出したのかもわからない。
強引に作り変えられる。細胞から、こいつの思うがままにされる。犯される。骨の髄まで、むしゃぶり尽くされる。
俺と、こいつは、友達で、小さい頃からのライバルで、戦友で。それで……それで、なんだっけ。
朦朧とする意識の中、ぐちゃぐちゃに混ざり合う精液が溢れるのを感じながら俺は意識を手放した。
ともだちにシェアしよう!