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 魔道士の言う通り、間もなくして勇者たちが戻ってきた。俺は泣きたい気持ちを殺し、せめて勘付かれないように散らばった服を着直し、布団に潜ってやり過ごすのだ。  ちっとも眠気はこなかった。  部屋の扉が叩かれる。起きようか迷ったが、反応するよりも先に扉が開いた。 「よぉ、具合大丈夫か?」  現れたのはシーフだった。  見たくもない顔を見てしまいうんざりする俺だったが、すぐにシーフの後ろから現れたそいつを見て息を飲む。 「今朝よりも顔色が悪いな」 「っ、お前……」  シーフの背後、現れた勇者に俺は思わず起き上がった。よりによって、なんだその組み合わせは。全てを知ってるシーフは一人にやにやと面白そうな顔をしてるのが余計腹立った。  それよりも、勇者だ。なんでこいつらここに。 「ははーん。さてはメイジのやつにまた虐められたか?」  そう、他人事のように笑うシーフに図星を指され顔に血が集まる。 「そんなわけないだろっ」と咄嗟に声を荒らげれば、自分でも思った以上に大きな声が出て驚いてしまう。それはやつらも同じだ。 「うお、びっくりした。……なんだぁ?珍しいな、お前があいつのこと庇うなんて」 「っ、別に庇ってなんか……っ」  ない、と言いかけたとき。ベッドの側までやってきた勇者に額を触れられる。驚いて顔を上げれば、こちらをじっと見る勇者と視線がぶつかった。 「熱は、まだあるな。今日は一日寝てた方がいい」  なんだ、こいつは。  昨日はあんな態度だったくせに、まさか酒抜けて記憶までなくなったのか。変わらない態度で心配してくる勇者に素直に困惑した。 「……言われなくてもそのつもりだ」  そう、勇者の手を振り払えばやつの目が僅かに開かれた。しまった、と思ったが、今はシーフの前だ。これくらいの拒否くらい許されるだろう。 「あれ、なに?お前ら喧嘩でもしてんのか?……珍しいな、雑用君がお前にそんなにつんつんしてんの」  すると、案の定そんな俺達のやり取りを見ていたシーフはおかしそうに笑うのだ。  この男は馬鹿そうに見えて嫌なところを突いてくるから本当に質が悪い。無視してると、勇者はそのままシーフの肩を叩いた。 「……シーフ、戻るぞ」 「はいよ。……それじゃあな、いい子で休んでろよ」 「……っ、うるさいんだよお前は」 「おーおー、どいつもこいつも機嫌悪いなぁ」  そして、二人は部屋を出ていった。本当に様子を見に来ただけだったのか。  何もされずにほっとする反面、体の奥でぞわりと嫌なものが蠢くのを感じた。あいつに触れられた箇所がより熱くなっているようだ。  ……最悪だ。  ただ話していただけだというのに布団の中、昂ぶっていた自身を見て絶望する。  それから一回自分の手で処理をしたが、魔道士の言う通り射精だけでは収められるものではなかった。  出しても出しても燻る熱は増すばかりで、悪循環だ。だからといって、魔道士にどうにかしてくれと頭を下げるのも癪だった。  スライムがいるから、なんだ。大人しい連中は放置してれば害にはならないなずだ。  そう言い聞かせながら再びベッドへと潜ったときだった。  再び、部屋がノックされる。  まさかまた勇者が戻ってきたのではないだろうかと身構えたが、扉の向こうから意外な声が聞こえてきたのだ。 『起きているか?』  その声の主は騎士だった。  慌てて起き上がり、「起きてる」と返せば扉が開いた。そこには着替えたらしい騎士がいた。 「休みのところ済まない。……晩御飯、女将殿が食べやすいものを用意してくれたというので持ってきたんだ。入りそうか?」  一人前の食事を乗せたトレーを手にした騎士に、「ああ、悪い」と頷き返せば騎士は安心したようだ。トレーを近くのテーブルに乗せる。  そして、そこに置かれた手付かずのままになっていた昼食を見つけたようだ。 「……昼食、入らなかったのか?」  指摘され、思い出した。魔道士が用意してくれたのだが、あいつのせいで食事どころではなくなっていたのだ。  ああ、と答えればその厳しい顔が更に険しくなる。 「けど、今は大丈夫だ。……食べられる」 「……そうか、じゃあ昼食の分は下げておくか」 「いや、そのままでいい。……せっかく作ってもらったんだしな」 「ならばもう一度温めてきてもらおうか」 「大丈夫だ、冷めてても食えるだろ」 「……そうか」  世話焼きなのだろう。図体がでかい男が甲斐甲斐しく世話を焼く姿はなんだか滑稽だが、今はその優しさが正直有り難かった。 「ならばまた後で空になった食器は回収しに来よう。そのままにしていてくれて構わない」 「…………」 「む……どうした?」 「……いや、あんたさ、誰かになんか言われてんのか?」  それは純粋な疑問だった。あまりにも甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる騎士が不思議で堪らないのだ。 「誰かに、というのは……」 「勇者……あいつらに、俺の面倒見ろとか、押し付けられてんじゃないかって話だよ。それなら、別に無理して言うこと聞く必要ないからな」  そう答えれば、騎士は驚いたような顔をする。  そして「そんなことはない」と首を横に振ってすぐに否定するのだ。 「なら……」 「それは、……その、自分が勝手にしてることだ。それとも、貴殿の負担になると言うならやめるが……」 「いや、別にそういうわけじゃないんだ。その、……そのだな」  こういうとき、なんと言えばいいのか言葉が見つからない。照れ臭くなって、俺はやつの顔をろくに見ることができなかった。 「……う、れしい」 「……!」 「けど、アンタに余計な気を遣わせたくない。だから、その……ほどほどでいいからな」 「……ああ、わかった」  騎士の表情が安堵で緩む。むず痒い空気が流れ、なんだか落ち着かなくなった俺は誤魔化すように布団に潜った。 「それじゃあ……自分は失礼する」 「……ん」  少しだけ頭を出し、出ていこうとしていた騎士に「またな」と声をかければ騎士はこちらを振り返って、仰々しく頭を下げていくのだ。  ……変な男だ。思いながらも、俺は扉が閉まったのを確認してのそりと起き上がった。  ……飯も食えばこの落ち着かなさもどうにかなるだろう。思いながら、俺は騎士の用意した晩飯に手をつけることにした。  空腹すら気付かなかったようだ。湯気立つそれを見てようやく腹が鳴る。二回分の食事を一気に詰め込むと流石に腹が苦しくなったが、大分気は紛れていた。  微熱状態は相変わらずだが、頭痛や関節の痛みは薄れていた。これもスライムのせいだろうか。わからないが、このまま消え失せてしまえばいいと思わずにはいられない。  寝てばかりは気が滅入りそうだが正直、この状況だ。下手に誰とも関わりたくなかった。  そんな状況なのに、騎士をまた部屋に来ることを許してしまうなんてな。俺も熱に浮かされていているのかもしれない。  眠気もないのにベッドに横になって眠気を待つ。起きてると悶々としてしまうからだ。  寝て過ごそう。そう暫く寝付こうと努力していたときだ。扉の外、足音が聞こえた。  そして、その足音は扉の外で止まった。  騎士だろうか、そうゆっくりと上半身を起こしたときだった。ノックもなしに開く扉にぎょっとする。 「よぉ、もうガキはねんねか?はえーな」  不愉快なニヤケ面。そして、鼻につくのはアルコールの匂いだ。酒気を帯びたその男――シーフは俺の返事を待たずして部屋に上がり込んでくる。 「……っ、シーフ……!」 「飯はちゃんと食えたみたいだなぁ?偉い偉い」 「勝手に部屋に入るな、この……ッ!」 「おいおい、そう毛嫌いすんなって。俺達の仲だろ?」 「……誰が……っ!」 「おい、んな大きな声出すなよ。……体に障るぞ」  誰のせいだと思ってるんだ。腹立って、近くにあった枕を投げつけようとしたがすぐにベッドの側までやってきたやつに取り上げられる。 「――……相変わらず凶暴だな」 「っ、……っ触るな」 「そんな顔してよく言うな」  どかりとベッドに腰を下ろしてくるシーフに肩を抱かれる。酒臭さに堪らず顔をしかめた時、やつの顔が近付いた。 「おい……っん、ぅ……ッ!」  当たり前のように唇を塞がれる。唇を舐められ、舌を挿れようとしてくる目の前の男にムカついてその肩を叩いて引き離そうとするが、肩を抱く手は緩められるどころか離れない。 「っ、ぉ、い……っ、ん、……っふ、ぅ……ッ」 「勇者のやつと喧嘩したんだってなぁ?……っ、なあ、だからか?……今日のお前すげー良いわ」 「な、に言ってんだ……っ!この、馬鹿ッ、ぅ、ん、……ッふ……ッ!」  唇が離れたと思えば角度を変えて更に深く重ねられる。甘く唇を噛まれ、捲れたそこから舌先で歯列をなぞられればそれだけで背筋がぞくぞくと震えた。 「ッ!ふ、ぅ……ッ、ん、ぅ……ッ!」  絶対に応えるものか、そう硬く唇を閉じようとすればするほどやつの行動は大胆になってくる。  押し倒されそうになり必死に抵抗するが、熱を孕んだままの体は触れられただけでびくりと反応してしまう。 「……っ、は、なあ。本当にただの風邪かよ、それ」 「……だ、まれ……っん、ぅ、……っ、や、めろ……っ触るな……っ」 「っ、あっつ……やっぱりな。なあ、お前のそれ、本当は催淫だろ?」  指摘され、息を飲む。気付かれていた。まさか、魔道士のやつが漏らしたのか。固まる俺を見て「まじか」とやつは楽しげに笑うのだ。 「……勇者と騎士のやつは気付いてねえみたいだけど、なあ、メイジとなんかあったんだろ?……あいつにやられたのか?」 「っ、ぉ、まえに関係ない……っ!」 「あるだろ。俺が楽しい」 「クソ野郎が……ッ」  服の裾の下、潜り込んでくる無骨な手のひらに直接腹部を撫でられただけで頭の奥がびりびりと痺れた。体の奥深く、息を潜めていたスライムたちが一斉に起き出すような不快感に堪らずやつの腕から逃げようとするが「まあ待てって」と無理矢理やつの膝の上に座らせられるのだ。 「お前が具合悪いって言うからこっちも我慢してたんだわ。……溜まってんだよ、抜いてくれよ」 「っ、……お前……最低だな」 「褒め言葉だっての。ほら、手ぇ退けろ」  太腿を撫でられ、必死に服の裾を掴んでいた手をやんわりと退かされる。腰に当たる硬い感触が不愉快なのに、擦り付けるように腰を押し付けられればそれだけで下腹部に熱が集まるのだ。 「っ、……っ、クソ……ん、ぅ……っ!」  嫌なのに、持て余していた体はシーフに反応するのだ。逃げようとする体を抱き抱えるように胸を揉まれ、堪らず奥歯を噛み締めた。触れられただけなのに、それだけで反応してしまう浅ましい体が嫌だった。 「っ、さっさと、済ませろ……ッ」 「わーってるよ。……けど、お前のそれなんとかする方が先だろ?」 「っ、俺は、いい……から……っ、ぁ、……っ、おい……ッ!」 「何言ってんだ。お前がやる気になんねえとこっちもまるで無理矢理してるみたいで萎えるんだよ」 「っ、どの口で……っん、ぅ……ッ」  乳輪を撫でられ、そのまま乳首の周囲を指先でぐるりとなぞられるだけで体が恐ろしいほど熱くなった。油断したら出したくもない声が漏れてしまいそうで、咄嗟に口元を手の甲で押さえれば、シーフの片手は俺の下腹部に触れるのだ。 「っ、ぅ……ん、ッ、ぅ……ッふ……ッ」 「すげえ、感度すげえよくなってんな。毎回これやってもらうか?」 「だ、まれ……ッ」 「そうカリカリすんなよ」  ほら、と下着の中に入ってきたシーフの手に甘勃ちしていたそこを握られた瞬間、息が詰まりそうになる。そのまま尿道口の溝を指先ですりすりと撫でられればそれだけで恐ろしいほど快感が高まり呼吸が浅くなる。 「これ、好きだろ?」 「っ、や、め……っ、やめろ、っ、それ……っ」 「っ……は、かわいー声」 「ん、っ……ぅ、ふ……ッ!」  ドクドクと脈が加速する。全神経がシーフに触れられてる箇所に集まっていく。いつの間にかにぴんと尖ったそこを柔らかく潰されるだけで熱は増し、勃起した性器その先端から透明な液体が滲むのを感じて顔が熱くなる。 「ぅ、く……ッ、ふ、……ッ!ぐ、……ぅ……ッ!」 「やべ、どんどん溢れてくるな。……そんなに溜まってんのか?」 「そ、んなわけ……っ」 「じゃ、収まんねーのか。……お前もおっかねえ魔法掛けられたな」 「っ、う、るせ……ぇ……ッ」  ゆるゆると性器を擦られ、その度に粘着質な水音が混ざる。性器と乳首を同時に扱かれ、体中に無数の得体の知れないなにかが一斉に騒ぎ出すのだ。  ぐちぐちと濡れた音が響く。身を捩り逃げようとする体を更に抱き込まれて先程よりも執拗に性器を摩擦されればあっと言う間に限界に達した。 「ッ、ふ、ぅ……ッ!」  尿道口から勢いよく溢れた精液が腹部に飛び散る。先程自慰したせいか、それともメイジの嫌がらせのせいかはわからないが明らかに普段よりも過敏になってるのはわかった。一人でしたときでもここまでは早くなかった。だからこそ余計惨めで、恥ずかしかった。 「へえ、流石に早えな」 「っは、ぁ……はぁっ、……くそ、ぉ……ッ!」 「っはは、そう照れんなよ。……感じやすいのはいいことだろ」  なあ?と耳朶を舐められ、息が乱れる。やめろ、とやつを睨めば、そのまま唇を重ねられるのだ。抵抗する気にもなれなくて、絡められる舌を受け入れる。全身が性感帯になったようだ。唇も、歯も、粘膜も、舌も。嬲られ、吸われるだけで頭の中がぐずぐずになっていく。せめて、理性だけは。そう思うのに、乳首をくりくりと弄ばれるだけで脳汁が溢れるようだった。 「っ、ん、ぅ、……っ、ふ、ぁ……ッ」 「……ん、そうそうお前はそうやってた方が絶対可愛いって。ほら、舌出せよ」 「っ、う、るへ……ん、ぅ……っ」  突き出した舌に舌を絡められる。気付けば片方の胸にもやつの手が伸びてきて、胸筋を円を描くように揉まれればそれだけで何も考えられなくて、ただそれを受け入れる。 「ん、っ、う……ッふ……ぁ……ッ!」  腫れた乳首は指が掠めただけでも痺れるような刺激が走る。それを見て、「堪んねえな」とシーフは更に腰を押し付けてくるのだ。 「お前のここもすっかりいやらしく育ってんな、なあ、こんなエロい乳首の野郎なんてお前か男娼くらいだろ。……いや、お前も男娼みたいなもんか?」  こんな状況じゃなきゃぶん殴ってやりたいのに。笑われても言い返せない。それどころか、現に飾りでしかなかったその部位でこれほどまでの快楽を得られるようになってること自体異常なのだ。  クソ野郎、そう口の中で吐き捨てたときだった。  コンコン、と部屋の中にノックの音が響いた。 『……夜中に済まない。食事の片付けに来た』  ――騎士だ。  血の気が引いた。「お」とシーフが動きを止めた瞬間俺はやつを押しのけ、慌てて服を着直した。  ちょっと、待ってくれ。そう、騎士に声をかけようとしたときだ。 「丁度良い、入ってきていいぞ」  この男、シーフは信じられないことにこの状況で騎士を招き入れようとした。部屋の外で食器だけを渡そうと考えていた俺は、この男の突拍子のない言動にただ固まった。

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