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何も心配しなくていい。
自分が協力する。
ナイトはそう言ってくれた。
出来ることなら誰の手も借りたくなかった。借りてしまえばナイトまで共犯になってしまうのだ。
手を煩わせることは気が引けたが、一人では難しいのが現状だった。
「すぐに貴殿が移動できるための馬車を手配しておこう。準備が出来ればすぐに知らせる、そして今夜中にはそれに乗って出るといい」
「……ナイト」
「……貴殿にも勇者殿にも未来がある、今夜で最後だと思うと寂しいが貴殿のためだ」
このナイトの言葉にそうか、と思った。
もうナイトと会えなくなるのだ。……勇者とも。
そう思うと胸の奥がぎゅっと苦しくなるが、俺はそれを見てみぬふりをした。自分で決めたことだ。これは勇者やナイトたちのためでもある。そう言い聞かせて。
「では俺は準備に取り掛かろう。貴殿は……」
「アンタと、一緒にいたい」
「……っ、スレイヴ殿」
「……邪魔か?」
宿にいてまた勇者の顔を見るのも嫌だった。……だから、このままナイトと一緒にいた方が合理的でもあると思った。
全部建前だ、本当は最後かもしれないと思うと離れ難かったのだ。
ナイトは慌てて首を横に振る。そんなわけがないだろう、と表情を柔らかくするのだ。
「……なら一緒に行こう」
「ああ」
俺とナイトは立ち上がり、広場を出た。
不安がないと言えば嘘になる。けれど、それ以上に一人で全て決めたときと比べて明らかに気分がよかった。隣にナイトがいるからだ。
これで最後になるかもしれないと思うと名残惜しいが、自分が決めたことだ。弱音は吐かない。
俺は喉先まで出掛けた言葉を飲み込んだ。
全ては順調だった。恐ろしいほどに。
ナイトが用意してくれた馬車。それで俺の知ってる街まで送ってくれることになる。荷物も全部置いてきた俺は無一文だ、そんな俺の代わりにナイトが金を出してくれたのだ。流石に悪いと断って徒歩で行くと伝えたが「せめて最後なのだからなにかさせてくれ」と半ば強引に渡されたのだった。
出発前、途中何があるかもわからない。日持ちする飯をいくつか買って荷袋に詰め込み、俺たちは再び馬車まで戻ってくる。
「……アンタまで他のやつらを騙させるようなことになってしまって悪かった。……けど助かった。俺はアンタがいなかったらきっとなにもできなかった」
ありがとな、と頭を下げればナイトは「それは違う」と首を横に振るのだ。
「俺が貴殿を助けたいと思ったのも全部、貴殿だったからだ。ひたむきな貴殿の姿を見て力になりたいと思えたのだ」
「……ナイト」
「すまない、どうも湿っぽいのは苦手でな。……貴殿なら何があっても大丈夫だ」
達者でな、と肩を叩かれる。これで本当に最後なのだ。言いたいことは色々あった、もっと色んな話もしたかった。――けど、決めたのは俺だ。
俺はナイトを抱き締めた。身長が足りなくてみっともないかもしれないが、それでも言葉だけでは伝えられなかったのだ。
一瞬腕の中でナイトの体が驚いたように跳ね上がるがすぐにナイトは俺を抱き締め返してくれたのだ。温かい体温に包まれる感触が心地良くはなれ難い。それでも離れないといけないのだ。
どちらからともなく体を離す。これ以上ナイトといると益々別れが辛くなりそうで怖かった。
「――じゃあな」
「ああ」
そう、ナイトに別れを告げ馬車の荷台に乗り込もうとしたほんの一瞬だった。
「……っ、スレイヴ殿」
名前を呼ばれた。振り返ろうとした瞬間、視界が陰る。唇に何かが触れたと気付いたときには既に離れたあとだった。
ナイト、と名前を呼ぶよりも先に背中を押されるように荷台に乗せられる。そして、ナイトの合図で馬車が動き出したのだ。
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