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「っ、スレイヴ殿……ッ、すまない……」 「……っ、な、いと……っ」  粘りついた口の中、口を閉じても鼻に残ったナイトの匂いで頭がいっぱいになっていた。すまない、と何度も口にするナイト。たった今射精したばかりにも関わらず既に頭を擡げているそこを見て、息を飲む。  少なからずナイトが気持ちよくなればよかった。そう思っていたが――。 「ハハッ!なんだナイトお前もう準備万端かよ。ま、気持ちは分からないでもないけどな」 「っ、こ、れは……ッ」  違う、とナイトが言いかけたときだった。 「お前も一緒だな、ナイト。……お前はこいつのことは肉欲の対象としか見ていない」 「……っ、勇者殿……」 「本当はスレイヴを犯したくて仕方ないんだろ。綺麗事だのなんだ言って結局お前も同じだ。……萎えてない性器が何よりの証拠だろ?」  そう指摘され、ナイトが息を飲む。  俺には勇者が何を言ってるのかまるで理解できなかった、言葉ではなくその真意が。それはナイトも同じなのだろう。 「ナイト、認めろ。スレイヴと性行為をしたいと認めればお前も……スレイヴも許してやる。今回のこともなかったことにしてやる」 「……ッ、貴殿は正気ではない、こんなこと……」 「異常か?そう思うならパーティーを抜けろ。こいつを置いて今すぐ部屋から出ていけ」 「な……ッ」  それは俺達だけではない、シーフも驚いたような顔をしていた。 「シーフ、拘束を解いてやれ」と勇者に指名されたシーフはなんだか含みがある笑みを浮かべ、「はいよ」と手慣れた手付きでナイトの拘束を離すのだ。幾ら武器を持ってない丸腰の状態とは言えあまりにも思い切った勇者の出方にナイト自身も困惑していた。  勇者には――あいつには自信があるのだろう、ナイトに襲いかかられてもなんとかできるという自信が。  メイジもシーフもいる、明らかに分が悪いのはナイトだ。 「……っ貴殿は、スレイヴ殿をどうするつもりだ、このまま……っ」 「どうもこうも、こいつには二度と俺から離れられないようにするだけだ。……どうだってもいい、俺と一緒にいてくれるなら」  俺の知ってる勇者とは思えない言葉だった。  ……けど、俺はこのときのこいつを知ってる。あのとき、俺をパーティーから追放したときの勇者も確かにこんな目をしていた。――本気だ。  そのとき、体が宙に浮く。抱きかかえられたのだと気付いたのは目の前にナイトの顔があったからだ。 「っ、な、いと……っ」  まさか、とナイトの腕を掴んだとき、ナイトはそっと俺をベッドに下ろした。うつ伏せになった体を慌てて起こそうとしたとき、腰を掴まれる。そして。 「スレイヴ殿、すまない。……今は、こうするしかないのだ」 「な、え……」  下着も身につけていない下腹部、尻の谷間に添えるように押し付けられたそれに息を飲む。  まさか、こいつは。 「……っ、ぁ、待っ……ッ、や、めろ、ナイト……ッ!お前は、こんなことしなくても……ッ!俺は、も、いいから……ッ!」 「……ッ、目を瞑っていろ、スレイヴ殿。――すぐに、済ませる」 「な、に……言って……ッ、ひッ」  大きくて、分厚い掌。頭を撫で、抱き締めてくれたあの手が今は俺の尻を鷲掴んでいる。  食い込む指、尻を掴んだまま左右に肛門を割り広げられれば広がったそこからは中に残っていた二人分の精液が溢れる感触がした。見られたくないところを、触れられたくないところを見られている。それだけでも酷く息が詰まった。それなのに、既に勃起したあの巨大な性器を擦り付けられればそれだけで腰が跳ねる。 「ナイトっ、だめだ、こんな……お前はこんなことしなくても……ッ!」 「……すまない、っ……」  荒く、熱い息が項に吹きかかる。息だけではない、触れる掌も、性器すらも熱した鉄の棒のようだ。だめだ、ナイト。そう頭を横に振ったが、ナイトはすまないと繰り返すだけだ。そして、すっかり解れたそこに押し当てられる亀頭に息を飲む。いくら解されたとはいえ規格外だ、口に咥えることすら困難だったものが今から自分の体内に入ると思えば戦慄した。 「待っ、無理だ入らな……ぁ……あ゛ぐぅうう――〜〜ッ!!」  押し潰される。気遣うようにゆっくりと、それでも明らかに許容範囲を越えた質量に体が悲鳴を上げる。潤滑油代わりのものがあるとはいえみちみちと裂けるように頭を埋めてくるそれに呼吸すらもできなかった。 「ッ、は――ッ、ぐ、ぅ、ひ……ッ!!」 「……っ、スレイヴ殿、息を……っ」 「う゛ぅう……ッ、……ッぁ゛、あ……ッ!」  内臓ごと押し上げてくるような圧迫感に耐えきれずシーツにしがみつくがそれでも緩和できるものではない。 「うっわ、えげつねー」「スレイヴちゃん頑張れー」と野次を飛ばしてくる二人の声すら頭に入らない。 「ふ、ぅ、ッ!う゛、……ッだ、いじょ、ぉ゛……ッ!ッ、らいじょ……ぉぶ、ぅ……ッだ、からぁ……ッ!!!」 「っ、すまない……ッ」  スレイヴ殿、と申し訳なさそうなナイトの声が聞こえてきた。大丈夫だと言いたいのに言葉にならない。開いた口からは唾液と獣じみた声が漏れる。  苦しい、息ができない。  滑る性器、腹の奥、最奥にまで辿り着いたその先っぽに突き当たりの壁を押し上げられるだけで頭の奥からどろりとしたものが溢れるようだった。そこは、やばい。だめだ。そう頭を振って、腰を浮かせようとするがまともに動けない。 「ぉ……ッ!ぐ、ぅ……ッあだっ、で……――ッ!」 「っ、く、ぅ……ッ!スレイヴ殿……力を抜け……ッ!」  力を抜くってなんだ。分からない。  ただナイトを受け入れることが精一杯だった。 「ぅう……――〜〜ッ!!」  腹がびくびくと跳ねる。苦しいのに、奥の突き当りを亀頭で体重かけるように押し潰されるだけで腰が甘く疼き、あっという間に甘い絶頂へと追いやられるのだ。断続的に飛び出す最早半透明の精液。自分が射精する度に頭の何処かが壊れていくのがわかった。 「っ、スレイヴ殿、……っ、あと少しの辛抱だ……ッ」 「っ、ふ……ッ、う゛……ッ!」 「……っ、スレイヴ殿……」  こくこくと何度も頷いて答えた。言葉を発する余裕すらもなかったのだ。頭を撫でられ、軽く顎を持ち上げられる。何事かと驚く暇もなかった。唇を重ねられ、全身がびくりと震える。 「っん、む……っ!」  それは宥めるようなキスだった。腰を止めたナイトは俺の頬に触れ、いつの間にかに乾いていた涙の跡を指先で拭うのだ。ずっと表情が見えなくて不安だった。けれど、ナイトも同じだ。申し訳なさそうな、苦しそうなその顔にようやく安心したように全身の緊張が僅かに緩む。  ――俺だけじゃないのだ。 「っ、ん、ぁ……ッ、な、いと、……ッ!ないと……ッ!」  体を攀じるようにしてナイトにしがみつき、唇を重ねる。片腿を掴んだまま、ナイトは更に腰を進めるのだ。腹が苦しいが、それ以上に重ねられる唇が緩和剤となった。舌を絡め、痛みを堪えるようにナイトの体にしがみつけばまるで子供をあやすようにナイトは俺の後頭部を撫で、更に深く舌を絡めた。濡れた音が響く。外野の声も耳に入らない、一つ一つ箍が外れていく。 「っ、ん、ぅ……ッひ、ぐ……ッ!」  ナイトの動きに合わせて腰が揺れる。痛くて苦しいだけと思っていたのに今は痛みが薄れていた。びくびくと痙攣する腰を撫でられ、「苦しくないか?」と尋ねられれば結合部越しに伝わるその低い声にすら甘い感覚が流れてくるのだ。 「だ、っ、いじょ……っぶ……ッ」 「……っ、そうか」  動くぞ、と囁かれ、俺は返事の代わりにナイトの首に腕を回した。 「っ、ぁッ、あ……ぁ……ッ!」  溜息混じりに声が漏れる。恥も外聞もない。ただナイトに抱かれ、喜びを感じている自分が確かにそこにいた。メイジの仕業か、この狂った状況のせいか、最早わからない。軋むベッド、ぐっと体重をかけるように奥を押し上げられるだけで思考は飛ぶ。次第に性器のストローク感覚が短くなり、覆い被さってくるナイトの呼吸も浅くなる。  ナイト、と縋り付けば、憐れむような目とともにナイトは俺に唇を寄せ、重ねる。触れるだけの口づけはピストンか加速するにつれ次第に激しさを増し、獣のように噛みつき、唇ごと貪られるのだ。 「っ、ん゛ッ、ふ、ぅ……ッ!ぅっ!んんぅッ!」  口の中、腹の奥両方から響く水の音に溺れる。自分の意思とは関係なく腰が揺れ、快感を得ようとするのをナイトは僅かに顔を強張らせるのだ。  険しい目に僅かに動揺の色が滲んだ。 「っ、す、れいゔ殿ッ、待て……ッ一旦、抜くから……っ」  ナイトが何を慌てているのかわかった。  膨らんだ腹の奥、根本奥深くまで収まったそれが既に限界だということも。ならば、と俺はナイトの腰を捕らえるように脚を回した。 「っ、このまま……」 「ッ、な……ッ!」 「っ、このまま、で、いい……から……ッ」  もっと、と強請るよりも先に腰を掴まれる。  ばちゅん!と腰を叩きつけられ体が大きく跳ねた。 「スレイヴ殿……ッ、スレイヴ殿……ッ!」 「っ、ひ、ぅ゛ッ!ぁ゛ッ、も、はげ、しッ、ん゛ッ、っ、も゛ッ、ぉ、お゛ぐ、ぅ゛……ッ!!」 「ああ、クソ……ッ、貴殿は……ッ!そんなことを……ッ!」 「ひッ、ぎゅ……ッ!ぅ゛ッ、ふ、ぉ゛ッぉ、おご……ッ!」  ガクガクとイキッぱなしの下腹部に最早感覚などはない、あるのは熱と快感だけだ。叩きつけられるほど肉体は溶けて形を失っていくようだった、ぐるぐると回る視界の中、悲しそうなナイトの顔だけがやけに鮮明に焼き付いていた。そしてすまない、とナイトが唇を動かしたときだった。  直腸に注がれる先ほどと変わらないほどの熱に呑まれ、意識が遠のいた。

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