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02※
「っ、や、めろぉ……っ!」
「誰だって良かったって言えよ、誰でもいい、気持ちよくしてくれる相手なら誰でもいいって」
「っ、……ッぁ、や、め……ッ!」
「シーフとメイジに抱かれてあんなに良がっていたくせに、俺は嫌か?」
あれは、メイジの妙な魔法のせいだ。
そう言いたいのに、ぬちぬちと浅い位置にある性感帯を指で責められれば脳に電流を流されたみたいにばちりと視界が白ばむのだ。それからすぐにやってくる恐ろしいほどの快楽に堪らずイロアスの腕に爪をたてた。
「っぃ……ッい、やだ……!イロアス……っ!」
イロアス、とその腕にしがみついて止めようとしたとき、ベッドへと押し倒すように唇を塞がれる。
「っ、ん、ぅ……ッ!ん゛……ッ!」
口の中を行き来する肉厚な舌に喉奥、その根っこから舌を絡め取られる。流し込まれる唾液を受け止めきれず、開いた口の端からたらりと垂れるそれを拭うこともできなかった。
逃げようとする腰を掴まれ、触れられてほしくない部分を遠慮なしに愛撫されればそれだけで頭がどうにかなりそうだった。
もう、こいつに従う理由もない。舌に噛み付いてやろうとするが顎いっぱいに開かされた口は思うように力が入らない。
「……っ、んぅ……ッ!」
ぬぷ、と指が引き抜かれた。次の瞬間、柔らかくなったそこを指で拡げられ背筋が震えた。
やめろ、と尚逃げようとする腰に既に膨らんだやつの下腹部を押し付けられるのだ。ごり、と嫌な硬い感触に昨夜の行為を思い出し全身が震えた。
「挿れて下さいって言え、スレイヴ」
「……っ、……」
「もう、指なんかじゃ満足できないだろ」
股の下から衣服越しに勃起した性器を押し付けられ腰が浮く。そんなはずないと言いたいのに、中途半端に掻き乱された神経はイロアスのものに集中するのだ。
「っ、嫌だ、そんなもの……っ俺は……」
「……じゃあなんだこれは?……腰が揺れているぞ」
「っ、ちが、ぅ……ッ、これは……」
指摘されてはっとする。
離したいのに、離れたいのにぐりぐりと性器を押し付けられると臍下にきゅっと力が入ってしまい、自分の意志とは関係なく揺れるそこに顔が熱くなる。
挿れてほしいなんて思わないのに、散々嬲られていた内壁はじんじんと痺れ、疼くのだ。嫌なのに、不快なのに、この衣服の下のものを捩じ込まれたときの感覚をすでに知ってる俺はそれを意識せずにいられない。
「……ッ、スレイヴ」
焦れたようにイロアスは唇を重ねてくる。
抱き締められるようにそのまま勃起した性器を擦り付けられ、腰を動かすイロアスはまるで自分の方が挿れたがっているようにしか見えない。
「やめろ」と制する声が震えてしまう。それもすぐにキスをされ、遮られた。
「っ、ん、ぅ……ッ!」
実際に入ってるわけではない。それが余計もどかしくて、疑似性交でもするかのように更に深く腰を押し付けてくるイロアスに血の気が引いた。
「っ、早く……言えよ、スレイヴ、挿れてくれって、なあ……ッ!」
「お前……っ、変だ、おかしい……っ、こんなの……っ、ぉ、……ッ!」
犯そうと思えば今すぐにでも挿入することもできる。今の俺はこいつに敵う自信がなかった。それなのにこいつはそれをしない。
なんでそこまでして俺の口から言わせたいのかまるでわからない。焦れたように、切なそうに、苛ついたように名前を呼ばれ、戸惑う。
「やりたいなら、やれば……いいだろ……っ!前みたいに人を無視して無理矢理にでもしたらどうだ……っ!」
これでは犯してくださいと言ってるようなものだと思ったが、今となっては行為自体に最早大差も意味もない。
そんな俺の言葉に、やつの喉仏がひくりと上下するのだ。そして、こちらを見ていた目が見開かれる。まるで、信じられないものでも見たかのように。
「っ、それじゃあ……意味ないんだよ」
伸びてきた手に頬を撫でられる。やめろ、と逃げようとすれば反対側の頬に伸びてきた手のひらによって顔を挟まれた。真正面、至近距離。イロアスの睫毛の一本一本すらも確認できてしまいそうなその距離の近さに息が止まった。
「……俺を、捨てないでくれ」
その揺れる瞳に部屋の明かりが反射する。
今にも泣きそうな顔で声を絞り出すイロアスに、俺は言葉を返すことができなかった。
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