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06
先を歩いていくメイジ。
建物の中は広く、静まり返っていた。
ここがどこなのかも分からない。確かに一部屋一部屋探していたら手間取るかもしれない。
思いなが先を歩くメイジを追い掛ける。
体が怠い、地に足が着いた感覚もないがそれでもただ見失わないように必死になっていた。
階段を登ったあと、メイジは奥にある部屋の前で立ち止まった。そして、こちらを振り返った。
「ほら、ここだ」
「……その扉から離れろよ」
そう睨めば、メイジは肩を竦める。そして「ハイハイ」とおどけたように扉から離れるのだ。
俺は恐る恐る扉をノックする。
……反応はない。
ちらりとメイジを見れば、メイジは「聞こえてないんじゃないか?」と小首を傾げた。一挙一動が癪に障ったが無視してドアノブを掴み、開こうとしたときだった。
扉がゆっくりと開く。
現れた影に、思わずぎくりと体が反応する。
「な……ナイト……っ!」
「ッ、……スレイヴ、殿」
昨晩ずっと一緒にいたはずなのに、酷く久し振りにナイトの顔を見た気がする。憔悴したその顔は俺の姿を見るなり表情が強張った。
そして、言いつけ通り離れていたところにいたメイジを見つけるとナイトは何か言いたそうな顔をするのだ。
「メイジ殿、何故彼を……」
「悪いなナイト、そこのガキがお前に会いたい会いたいってしつこくてな」
メイジにガキと言われようが気にならなかった。
ナイトがいる、それだけでホッとした。
「……ナイト、大丈夫だったか?怪我は……」
「……自分のことはいい、貴殿は……ッ!」
言い掛けて、ナイトは言葉を飲む。
掴まれた肩に驚いて顔を上げれば、青褪めたナイトは俺からすぐに手を離す。そして真っ青のまま、顔を抑えたのだ。
「……ッ、すまない……俺は、貴殿に合わせる顔がない」
「っ……ナイト、お前のせいじゃない。あれは、イロアスとあいつが悪いんだ。あいつが、変な魔法掛けるから……っ」
「なんだ?本人の前で堂々と悪口か?」
必死に宥めようとしてもナイトの表情は変わらない。「スレイヴ殿……」と唸るナイトの視線が動いたと思ったとき、いきなり背後から肩を掴まれる。――……メイジだ。
「っ、触るな……!」
「スレイヴちゃん、いいこと教えてやる。……あのとき確かに俺はお前に催淫魔法は掛けた。けどな、ナイト――こいつにはなにもしてないんだよなぁ?」
「…………は?」
一瞬、言葉の意味がわからなかった。
「こいつはあのときいつもと同じだったんだよ。俺はなーんもしてないのに勝手に興奮して勃起してお前を犯したってわけ、酷い男だよな。……頭おかしくなってるお前にトドメを刺すなんて」
メイジの言葉が頭に入ってこなかった。
ナイトは俺から視線を外したまま何も言わない。
頭が真っ白になる。
そんなはずはない、違うと言え。否定してくれ。
あのとき、あの場がおかしいことくらいわかったはずだ。それはメイジの魔法のせいで、イロアスの命令のせいで、全部こいつらが悪いせいで俺とナイトはそれに巻き込まれただけなのだと。
「…………っ、すまない」
なんで、俺の目を見ないんだ。
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