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「この、やろ……っ」
「どうせメイジとも遊んだんだろ。いいじゃねえか、減るもんじゃねーし」
してねえよ、と言い掛けて言葉を飲んだ。
一晩いて何もないのは可笑しい、何か企んでるなどと変な勘ぐり入れられるのは厄介だ。
必死にシーフの腕を掴み、引き離そうとするがろくに腕に力が入らない。はいはい、とあしらうように躱されるのだ。
抵抗も虚しく呆気なく脱がされる服。寒いはずなのに、熱い。
ソファーの上、仰向けに倒れる俺をじっと見下ろすシーフは「妙だな」と片眉を上げる。
文字通り無防備状態の上半身に絡みつくようなその視線画不愉快で、隠そうと体を撚るが腕を掴まれ再び仰向けの形で固定されるのだ。
「っ、さ、わるな」
胸元。当たり前のように指の腹で撫でられ、不快感に堪らず体が跳ねる。それでもシーフは俺の反応など気にも留めずに至るところへと手を這わせた。まるで何かを探すように。
腕を掴まれ、脇の下まで覗き込まれれば頭がおかしくなりそうなほど熱が増す。やめろ、とシーフの腕を振り払おうとしたときだった。
「お前、まさかメイジと何もしてないのか?」
シーフの言葉に体が固まる。
言われて自分の体に目を向けた。確かに昨夜は何もされなかった……わけではないが、それでもキスだけだ。
そんなことどうでもいいだろ。そう言いたいところだが、この男はそういうことに変に敏いのだ。
背筋に冷たいものが走る。
「それともあいつがご丁寧に痕跡ごと消したのか?」
「ど、……っ、でもいいだろそんなこと……」
「そうか?じゃあセックスはしたのか。何回中に出してもらったんだ?体位は?」
「っ、……こ、の……」
「ははっ!そう怒んなよ。可愛い冗談だろ」
どこがだ、と睨めば満足げにシーフは笑うのだ。そして、脇の下に手を差し込むようにして上半身を抱き込まれ、親指で胸の突起を潰される。
まるでゴム手袋越しに触れられてるような鈍い感触。にも関わらず、それだけで反応しそうになる自分の体に血の気が引いた。
「や……っ」
「あいつ、どんな女にも興味示さないから使い物にならないのかと思ってたけど……一昨日のあれ、正直驚いたんだよな俺。そりゃ女に興味ないわけだわ。お前みたいのが好みならな」
「っち、がう……そんなわけ……」
「好きの反対は無関心だと言うわけだな。お前にはやたら絡んでたしな」
違う、と言いたいのに下半身を触れられればその続きを発することはできなかった。
下着ごとずるりと下を脱がされ、剥き出しになる下半身。俺の腿を掴んだシーフはそのまま膝の頭を上半身へと押し付けるように開脚させてくる。
「っ、や、やめろ……っ!離せ……っ!」
「こっちも治されてんのか。……ああ、でもこりゃどう見ても立派な性器だな。メイジのやつでも、ケツの穴の広がりだけはどうしようもないってことか?」
息を飲む。自分の体がどんな状況かなんて知りたくもない。
柔らかくなったそこを唾液で濡らした指で撫でられ、息を飲む。「やめろ」と首を横に振れば、シーフは問答無用で指を挿入させてくるのだ。
「ぅ、ん……ッ!」
「はは、大分柔らかくなってんな。……見ろよ、すぐに俺の指まで飲み込んでいく」
「っ、だ、まれ……っ!」
「あんま大きな声出すなよ、ナイトが起きるぞ」
こいつ、と睨んだとき、体内へと指を追加される。腹側へ向かって柔らかく襞を揉まれ、ぶるりと背筋に寒気のようなものが走る。
ナイトのことを興奮剤にでもしてるつもりか、悪趣味男が。口の中で罵倒することが精一杯の抵抗だった。
「っ、ぅ、ふ……く、ぅ……ッ」
「白くなるまで唇噛んで声我慢してんの、いじらしいよなぁ?……なんなら助け呼んでみたらどうだ?ナイト様ーってな」
「だ、まれ……ッ!」
怒りで頭がのぼせ上がりそうだった。
酔いのせいか焦点も定まらない。ただ腹の中を掻き混ぜる骨這った無骨な指の感触だけがやけに生々しくこびりつくのだ。
気持ちよくない。こんな行為。そう思うのに、ぬちぬちと音を立て中を愛撫されるだけでいつの間にかに全身はじっとりと汗で濡れる。呼吸が浅くなり、込み上げてくる快感を逃がそうと腰が浮くが逃れるどころか更に責め立てられるのだ。
「っ、ぁ、や、抜け……ッ!や、め……っ、ん、ぅ……ッ!」
「まあ、もうあいつはお前を助けちゃくれねえだろうがな」
「……ッ、ん、ぅ……ッ!」
唇を噛み、声を殺そうとするがくぐもった声までは殺すことができない。
逃げようもする腰を捕えられ、腿を掴んでいたその手は脹脛を撫でるようにそのまま踝まで降りていく。そのまま俺の靴を脱がせば、素足、丸まった爪先に唇を寄せる。
「っひ、や、どこ……ッ!」
「お、お前足の指弱いのか?……中、すげえ締まったぞ」
「やめろ、馬鹿ッ!ッ、さ、わるな……ッぁ、おい……ッ!」
「っ、小せえ足」
舌を出すシーフに冗談だろ、と血の気が引いた。あろうことかやつは人の足の指に舌を這わせるのだ。
「っ、や、……ぅ、……ッくぅ……ッ!」
ぞわぞわと背筋が凍り付いた。
足の指を口に含められ、ぬるりとした熱に覆われた爪先に這わされるナメクジのような感触に腰が震えた。
そんなところ舐められたこともなかった。
やめろ、とシーフを蹴ろうとするが、下腹部に力が入らない。
「っ、や、めろ……汚いだろ、シーフ……ッ!」
「っ、は……すげえ中ヒクヒクしてる。勇者に舐めさせたことなかったのか?」
「ぁ、……あるわけ……ッ!」
「じゃ教えてやんねえとな。お前は足の指の谷間、舌で穿られんの好きだって」
「……ッ、く、ぅうん……ッ!
この酔っ払いが。
怒りと羞恥でどうにかなりそうだった。汚い音を立て、唾液でどろりと濡らされた指ごと吸い上げられた瞬間体が大きく震える。自分で制御できるようなものではない。
内股が痙攣し、腰にろくに力が入らない俺を見下ろしてシーフは満足げに丸まった指から口を離す。そのままこれみよがしに爪先にキスをされ、顔面に血液が集まる。見られていることが、やつの視線が耐えられなくて俺は逃げるように腕で顔を覆った。
「……おい、隠すなよ。せっかくの貴重なお前の可愛い顔が見れないだろ?」
「っ、黙れ、変態……ッ」
「変態はどっちだよ」
ぬぽ、と音を立て中から引き抜かれる指に息を吐く暇もなかった。
いつの間に血液が集中し、服の裾の下から頭を擡げていたそこを指で弾かれ腰が跳ね上がる。
「ッ、や……め……ッ」
「イヤイヤ言ってる割にしっかり濡れてんじゃねえか。ケツの穴まで垂れてきてんぞ、先走り」
「っ、ぅ……ッ」
「これなら潤滑油要らずだな」
ぬるりと先走りを絡め取るように性器の周囲を這っていたその指は、再び口を開かされていたそこにぬぷりと咥えさせられる。先程よりも執拗に内壁に塗り込まれるそれに堪らずシーフの腕を掴めば、やつは笑った。
「っ、ぃ、やだ……シーフ……ッ」
「諦めろ、どうやったってお前は逃げられないらしいからな。……それなら全部諦めて気持ちよくなった方が楽だと思わねえか?」
「お互い」と囁かれる声に腰が反応する。そんなわけがない。言い返したいのに、腰を持ち上げられ、下からごり、と押し付けられるその嫌な感触に言葉詰まった。
「ぉ、まえ……っ」
「ナイトにバレたくないんなら声、しっかり我慢しとけよ」
見てわかるほどに張り詰めた前を器用に片手で寛げるシーフ。
鼓動の間隔が狭まり、呼吸も浅くなる。
服の裾を噛み、下着の中から限界まで張り詰めたグロテスクなそれ取り出すシーフ。
俺はそれを直視することができなかった。
これから、これを当たり前のように受け入れらなければならないのだ。抵抗せずに、享受しなければならない。
「……ッふ、ぅ……っ」
口を手の甲で押さえ、声を殺す。肛門にぴったりとくっつけられる亀頭に腰が逃げそうになるのをシーフに掴まれた。
ナイト、頼むから、頼むからずっと寝ててくれ。
頭の中で呟き、硬く目を瞑った。辺りが闇に覆われるも一瞬、すぐに視界は白く火花を散らす。
「っ、ひ……ん゛ぅ゛ッ!ふ、……――ッ、ぅ、ん゛ぅ……ッ!!」
何度やったとしても馴れることはなかった。
大きく股を開かされ、正面顔を覗き込まれるように犯されるこの体勢がただ苦痛だった。
「……っ、は、やっぱ最高だな、お前……ッ!緩くなってるかと思ったが寧ろ中は柔らかくなって余計吸い付いてくるの堪んねえわ……ッ!」
黙れ、でかい声を出すな。
そう言ってやりたいが、少しでも唇を開こうものなら出したくもない声が出てしまいそうで怖かった。
ギシギシと軋む古いソファーのスプリングに、ナイトが目を覚まさないか気が気でなかった。
さっさと済ませろと必死に堪えていたときだった。
「……う……」
隣で眠っていたナイトが寝返りを打つのだ。先程まで背中を向けていたにも関わらずこちらを振り返るナイトに血の気が引いた。
そんな俺を見てやつは笑う。
「……っ、は、そんなに焦んのかよお前、ビビりすぎだろ。すげえ中締まったし……ッ」
「も、……ぉ……さっさと、済ませろ……ッ!」
「……はいはい」
そう、やつがニヤリと笑ったときだった。
根本奥深くまで挿入したままやつは俺を抱き抱えるのだ。
「っ、お……おい……ッ!」
嘘だろ、と驚愕する暇もなかった。
結合部から伝わる振動、体重に耐えられずに奥をずんと突かれる衝撃に頭の中がどうにかなりそうだった。あまりの刺激に耐えられず、咄嗟にシーフの体にしがみついたときだった。すぐに体は降ろされた。
それも、ナイトのすぐ隣にだ。
「やめろ、シーフ……やめてくれ……ッ!」
「はは、あんな生意気だったお前に懇願されんのは悪くねえなぁ……ッ!」
「っ、ひ、ィ……ッ!」
「っ、……やっぱな、すげえ中ビクビクしてんの。……なあ、スレイヴ。やめてほしいんだったらお前から腰振って俺をイカせてみろよ」
腰の動きを止めたまま、シーフは挿入物により膨らんだ俺の腹を撫でるのだ。その触れただけの感触ですらあまりにも強く、脳髄が溶け出してしまうかのような熱に視界が眩む。
「っ、な、にいって……」
「じゃ、ナイト起こして三人でやるか?俺はそれでも全然構わねえけど?」
「……ッ!や、めろ……!」
「即答かよ。なあ、そんなにあいつのこと嫌ってやんなよ。ナイトが可哀想だろ」
その言葉とは裏腹にこの男はこの状況を楽しんでいた。
そして本気でバレても構わないと思っている。
「……クソ……っ」
何よりも一番腹立たしかったのは、一向に萎える気配のない己自身だ。
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