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「そうか、まあ抵抗したって疲れるだけだもんな。……それがいい」
シーフは一人うんうん頷きながら、よっこらせと隣のチェアに腰を掛けた。
近付いて分かったが、この男相当な酒の匂いだ。
よくもこんな状態で料理が出来たな。むかつきよりも感心すら覚える。
「……もう少し離れろ。酒臭いんだよ」
「お前も呑むか?」
「呑まない」
「付き合い悪いやつだな。前はあんな可愛く酔ってたのに」
「……っ、クソ……」
余計なことを思い出させるな。
嫌なものを感じ、ジェラートを口の中に掻き込んだ俺はそのまま「ご馳走さま」とスプーンを置いた。
そして逃げるように立ち上がろうとしたときだ。
「……まあ、待てよ。せっかく来たんだ、もう少しゆっくりしていったらどうだ?」
「これ以上酔っぱらいに付き合うつもりはない」
「そう寂しいこと言うなよ。俺たちの仲だろ?」
何が仲だ。握られた手を振り払う。そのまま立ち上がろうとしたときだ。足元がぐらりと揺れた。
立っていられず、思わず体が傾く。
「……っ!」
「あーあ、相当足にキてんな」
思うように力が入らない。おかしい、そう感じたときには遅かった。立ち上がろうとするが、目が回るように体に力が入らない。
そんな俺を見て、手にしていたグラスを置いたシーフは立ち上がり俺の横まで来る。
「お、まえ……何を……ッ」
「おいおい、俺は本当に何も盛ってないからな。さっきのジェラートに酒入れたくらいだし」
「……っ!」
「まあ、美味かったんならいいだろ。ほら、立てるか?」
クソ、こいつ。元はといえば俺のために作っていたのではないとわかっていただけに何も言えない。それでも、俺が酒が得意ではないと知っていたはずだ。
抱き抱えられ、「降ろせ」と藻掻くが力が入らない。
ナイトが眠りこけるソファーまで連れてこられ、寝転がらされる。やつの隙きを見て逃げ出そうとするが、跨ってくるシーフに乗られると身動きが取れなくなってしまうのだ。
「っ、や、めろ……ッ!」
「今更何言ってんだ?……せっかくあいつの公認になったんだ、もうコソコソする必要もなくなったんだから人目なんて気にする必要なんてないんだぞ」
この男は本当に何も変わらない。
伸びてくる手に胸元を弄られ、息を飲む。一つ隣のソファーでは眠りこけているとはいえナイトもいるのだ。
「じょ、うだんじゃ……ねえ……ッ!」
「抵抗すんなよ。俺は無理矢理みたいな真似は好みじゃないんだ」
こいつ、どの口で。怒りで頭がどうにかなりそうになったとき、当たり前のように塞がれる唇にぎょっとする。
「っ、ん、ぅ……ッ!」
濃くなる酒気に噎せ返りそうになる。
舌で唇を這った瞬間、つい昨夜の名残で自ら口を開けてしまいハッとしたときには遅かった。
「っ、待っ、て、この……ッん、ぅ……ッ!」
ぢゅぽ、と濡れた音を立て口いっぱいに頬張らされる舌に頭の中が塗り替えられていく。
眠っていたナイトが俺の声に反応するかのように小さく唸るのを見て、血の気が引いた。
「っ、シーフ、やめろ……ここは駄目だ……ッ」
「そんなにナイトにバレたくないのか?……どうせもう一度は寝たんだ、気にする必要ねえだろ」
「っ、そういう問題じゃ……」
「酒が足りてねえんだよ、ほら、お前ももっと飲めよ」
そうどこからか持ち出す酒瓶の口から直接それを喇叭のように飲むのだ。そしてそれを口に含んだまま口移ししてくるやつにぎょっとする。
「ん、っ、ぅ……ッ!」
流し込まれる酒を必死に拒否しようとするが、唇から溢れる酒に混じってそれを回避して喉奥へと流れる感覚に背筋が震えた。口いっぱいに広がる酒の味に頭の中が白く靄がかったように霞む。
「っ、……こ、の野郎……ん、っ、んぅ……っ!」
文句を言う隙も与えられなかった。口移しで直接体内へと酒を飲まされ続け、シーフの手にする瓶が空になったときには既に俺の意識は輪郭を失いかけていた。
溢れるのも構わずに酒を浴びせられ、ソファーの上から逃げることもできない。
「ようやく可愛げが出てきたな」
酒瓶に残った酒を俺の頭に掛け、それを舐め取りながらやつは笑う。
どこを触れられてるのか最早感覚すらなかった。
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