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【番外編】酔っ払いナイト×村人SSS
ナイトが酒に弱いというのは聞いていた。
だからこそシーフに半ば強引に飲みに連れて行かれていたときは本気で心配になったし、やめろとシーフを止めたのにも関わらず「食事をするだけだから心配しなくても大丈夫だ」とナイトに宥められる。だから渋々見送ったのに。
「飲まないって言ったくせに」
「……すまない、まさか……料理に入ってるとは思わなくてな……」
足取りは覚束ない。一軒目で知り合った女たちと二軒目へと向かおうとするシーフを残してナイトは自力で宿へと帰ってきたようだが全身から酒の匂いがする。……顔も赤い、相当具合が悪そうだ。
「シーフのやつが飲ませないわけないだろ。……階段、登れるか?」
「……ああ」
言いながらも段差を踏み外すナイトを慌てて支えようとするが重い。焦点の定まっていない目がこちらを向く。すまない、と口にするナイトの滑舌すら怪しい。流石に俺の腕力ではナイトの巨体を抱き抱えて部屋まで送ることもできない。仕方ない、とナイトの腕を掴む。ぴくりと衣服の下でナイトが反応するのがわかった。
「……スレイヴ殿……?」
「俺の部屋一階にあるから、今夜は俺の部屋で寝たらいい」
「し……しかし、貴殿の部屋に邪魔するわけには……」
「酔っ払いが気を遣うな。……ほら、足元気を付けろよ」
説得させるよりも連れて行った方が早い。しかし、でも、と口籠るナイトを半ば強引に連れて行った先、部屋の扉を開いて俺はベッドの上にナイトを横にさせる。
「スレイヴ殿……」
「気分はどうだ? 喉は乾いてないか?」
「……ああ、大丈夫だ」
普段飲みたがらないナイトを知ってるからこそ心配していたが、意識がまだある分大丈夫か。
……それにしてもだ。
「……」
「す、スレイヴ殿……?」
「……今度、シーフと食べに行くときは俺も行く」
二人を見送ったときも面白くなかった。シーフが気に入らないこともあるが、ナイトもナイトだ。俺といるときは絶対飲まないのに、こんな風に酔っ払うところも見せないのに……なんだか面白くなかった。
「スレイヴ殿、それは」
「……なんだよ」
「いや……そのだな……すまなかった」
別に謝ってほしいわけではない。ナイトをこんな風に困らせたいわけでもないけど、ムカムカするのだ。伸びてきた大きな掌に頬を撫でられ、こそばゆさに身動ぐ。なんだよ、とナイトを睨めばナイトは口元を緩めるのだ。
「……なにニヤニヤしてるんだよ、俺は怒ってるんだからな」
「ああ……そうだな、悪かった」
「……撫でるな」
「……心配掛けて悪かった。――しかし、もう大丈夫だ」
なにが、と聞き返すよりも先にナイトの手が離れていく。咄嗟に離れる指先を目で追ったとき。起き上がったナイトに抱き締められた。
酒の匂い。明らかに熱を孕んだ掌で後頭部、髪をかき混ぜるように撫でられれば思わず喉がひくりと震える。
「……まだ酒臭いぞ、あんた」
「やはりそうか……少し夜風にでもあたって酒を抜いてきた方が良さそうだな」
「……いや」
「む?」
「それなら……ここで休んでいけばいい。……それに、また、あんな千鳥足で出歩いて転ばれて怪我されても困る……だろ」
だから、とナイトの腕を掴む。あれ程熱かったナイトの体温が馴染んでいくように感じるのは自分の体温も上昇しているからとわかった。語尾が自然と萎んでいく。やましいことは言ってないはずなのに、ナイトの顔を直視することはできなかった。
……こんな風にみっともないあんたを他の奴らに見せたくない。なんて、そんな風に思ってることをナイトに知られたくない。そんなみみっちい、心の狭いやつだと思われたくない。けど、行ってほしくない。
「……そうだな、もう少し邪魔させてもらう」
くしゃりと撫でられる髪。大きな掌に頬を撫でられ、思わず目を細めた。
なあ、俺はあんたを邪魔なんて思ったこと一度もないぞ。なんて酔っ払い相手だとしてもいうのも照れくさい。代わりにああ、とだけ答え、俺はナイトの隣に腰をおろした。
熱はまだ冷めそうにない。
おしまい
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