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【番外編】メイジ誕生日SSS 2023
――某日、宿屋のロビーにて。
「誕生日か。……ああ、そういえば今日だったな」
イロアスから受け取ったプレゼントを手にしたメイジは他人事のように呟く。
元よりこの男が誕生日を意識し喜ぶような男とは思わなかったが、それにしても少しは嬉しそうにしたらどうだと呆れた。
そのくせ、
「スレイヴちゃんからは祝の言葉はないのか?」
こちらへと矛先を向けてくる男に、俺は「あるわけないだろ」と返す。
「そもそもお前にも誕生日があること自体驚きだ」
「スレイヴ、お前はまたそんな言い方をして。……悪いな、メイジ」
「気にするな。スレイヴちゃんの“これ”にも大分慣れてきたからな」
俺とメイジの間に割り入ってきては宥めてくるイロアスには怒りも覚えない。誕生日くらいは、という気持ちは分からんでもないが、だとしても相手はこの性悪男だ。そもそも、本人も言った通りイロアスに祝われても嬉しそうな顔すらしない。
少しは喜んで見せりゃ、こっちだって素直におめでとうくらいは言ってやろうと思ったが。
「産まれてきたことを感謝する日か。そんな日を最初に思いついたやつはどこのどいつだろうな、顔が見てみたい」
さぞ恵まれたやつなんだろうな、とそんなことを呟くメイジにイロアスは「そうだな」と笑う。この男は本当に、素直に受け入れて『ありがとう』と少しは嬉しそうしたらどうだ。
これ以上ここにいてはまたイロアスに怒られるようなことを口にしてしまいそうで、俺はさっさと自室へと戻った。
自室の扉を開き、テーブルの上に荷物を置く。
そしてそのままベッドへ寝転んだ。
生まれてきたことに感謝するつもりはない。あの男が俺の目の前に現れてからはろくなことはなかった。
それでも、普段治癒してくれてる分の礼くらいならばしてもいい――そう思って用意してきた魔石たちも無用になってしまった。
後でアイテム屋に持っていって換金してもらおうか、等と思いながらごろりと寝転んだとき。
「随分と可愛らしい袋に入ってるな」
「……っ?!」
部屋に響く声に驚き、慌てて体を起こせば机の前、いつの間にかに部屋に入ってきていたメイジは袋の中から取り出した魔石を指先で弄んでいた。
「なに、勝手に……っ、部屋に……」
「声をかけたつもりだったが返事がなかった。だから勝手に入ったまでだ」
「嘘吐け、ノックの音も聞こえなかったぞ……っ!」
「そうか、残念だったな」
この男、と慌てて飛び上がり、魔石を取り返そうとしたとき。ひょいと腕を伸ばしたメイジにそれを高く掲げられる。照明の明かりを吸い込み、鈍く光を反射させる魔石。そして、それを覗き込んだメイジは「荒い削りだな」と微笑む。確かにその辺の鉱山で調達し、見様見真似で加工したものだ。普段から高価な石や本物の宝石を見たり触れているこいつからしてみれば粗悪品も同然だろう。
「……っ、ああ、そうだな、金にもならないから捨てようかと思ったんだ」
今更恥ずかしくなってきて、同時に腹が立ってくる。
そう言い返せば、その魔石を光に翳したままメイジは視線をこちらへと流す。
「けど、美しい」
「……は?」
「捨てると言うなら丁度いい。俺が貰おう」
「なに勝手なこと言って……」
「丁度この石が欲しかったところだ。捨てるくらいなら俺に渡せと言ってる」
命令口調に腹立ったが、最初からそのつもりだった。勝手にしろと呟けば、メイジは少しだけ満足そうに鼻で笑う。それから今度はちゃんと扉から部屋を出ていった。
……なんなのだ、あいつは。
ムカついたが、いつもみたいにネチネチと絡まれずに済んだのはよかった。
俺だって別に、せっかくの誕生日を進んで台無しにしてやろうとは思わない。けどだ。
――美しい。
そう、そこら辺に転がってる希少でもない魔石を見てそう呟くメイジに、俺はなんとも言えない気分になっていた。腹立つし、ムカつくやつだけど。
鉱山の中、岩の塊の中で一際輝いて見えたあの魔石を見つけたとき、目を奪われた。光よりも眩しく、闇よりも怪しく発光するあの石を見つけたときの俺と同じ目をしていたあの男に。
「……ふん」
生まれてきてくれてありがとう、なんて思わない。が、これで少しはおあいこにはなったのではないか。
なんて思いながら、俺は目を閉じた。暫くあいつの輝く目が網膜に焼き付いて離れなかった。
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