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喧嘩なんてしたくないのにね
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もうすぐでクルスさんの働くパン屋に着くっていう時、突然後ろから誰かに腕を掴まれて慌てて振り向いた。
「ミント…………どうし___」
そこまで言ったところで、バツが悪くなって俯いてしまう。
肩で息をしつつ必死で怒りを堪えて今にも怒鳴りそうなミントの背後に隠れているバニラの姿が見えたせいだ。
「ミ……っ……ミント……も……っ……もう、いいんだ。ボクは、大丈夫だから。ジンジャーは、にいさんに会いにきたって、ちゃんと分かってるから___」
バニラの声は震えてる。
「うるさい、黙ってろ。よりにもよって、ジンジャーからあんなふうに惨めな目に合わされて悔しくないのか?」
ミントの声も、それ以上に震えてるのが分かる。少なくとも買い物中のおばさんや、汗水流しながら仲間と共に漁仕事をしているおじさんが此方をじろじろと見つめてヒソヒソと会話をするくらいには____。
「学校が終わった後、バニラが教室でずっと一人で待ってたのに……お前、気にもかけてやらなかったのか?そのせいで、こいつ……クラスの奴らから酷いことされたんだぞ」
ここまで声を荒げるミントの姿を、初めて見た。
いつもは、少しだけぶっきらぼうというだけで、ここまで声を荒げながら怒ることなんてないし、何だかんだで情が厚いということも頭では分かってはいる。
「じゃあ、ミントがバニラの世話をしてあげればいいじゃないか。どうして、いつもいつも僕ばっかりなの?」
二人は、何も言わない。
でも、そんな状況でも分かっていることは__今、ボクは笑みを浮かべているということだ。
「そこまで言うんなら、ミントがバニラを毎日送り迎えをしてあげて、可哀想なバニラが寂しがらないように話し相手になってあげればいいじゃないか………っ……バニラなんて……バニラなんて____」
ミントの手によって、頬を叩かれてしまった。
そのせいで、続きの言葉を言えなくなる。
平手打ちされた直後は俯いてしまったが顔をあげたボクの目に灼きついたのは、眉をひそめて心底軽蔑しているミントの顔____。
二人は何も言わずにミントが少し強めにバニラの手をとると、そのままこちらを見ることなく何処かへ行こうとする。
ただ二人の姿が見えなくなる直前に、バニラだけはチラッと目線を向けてきて、何か言いたげにこっちを見つめてきた。
(ごめんね……………)
僕は、たったそれだけの言葉を呑みこんで呆然とその場に立ち尽くしてしまう。
でも、僕の心は何だか雲一つない青空みたいに清々しくてたまらないんだ。
ヴ……ッ……
ヴヴヴヴヴ………
どこかで、誰かの電話が鳴っているみたい。
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