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旅路5.5 ※(エディ視点)

 魔法でフィルを深く眠らせた後、俺の服を掴む白い手をそっと外して、まずは洗面所へ向かった。  石鹸も使って手を綺麗に洗い流し、そのまま顔にも冷たい水をかける。  自分の何倍も大きい魔獣と一昼夜休まず戦い抜いたときや、小さく素早い魔獣を何日もかけて隊員たちと囲い込んだときでさえ、ここまで忍耐力を試されたと感じたことはなかった。   「はぁ……」    先程から口をついて出るのはため息ばかりだ。俺は早く戻らねばと思いつつも、洗面台に手を付いて項垂れていた。  フィルは……あまり酒が飲めなさそうだなぁとは思っていた。が、止めはしなかった。今後は付き合いで飲まされることもあると思ったし、極端に具合が悪くなるようであれば、ラロが気づいて止めるだろうと……楽観的に考えていた。  本音を、言えば。酔ったフィルがどうなるのか見てみたかった……というのはある。    しかしまさか、ああなるとは……反則だろう。  可愛すぎる。何度心の中の邪な自分が「そのまま襲ってしまえ」と囁いたか分からない。実際にギリギリだった。いやもうほとんどアウトだ。  ……嫌われてはいない。染められるのが怖いだけで、別にフィルは俺のことが嫌なわけじゃない。むしろフィルの今までの人生を考えると、非常に好意的に接してもらえていると思っていいだろう。先程も嫌とは言わなかった。だが……  明日もし、フィルが全て覚えていたら……何と言い訳をしたものか……  顔を上げて鏡の中の自分を見ると、あまりにも情けない表情をしていて、自嘲に笑ってしまった。    すぅすぅと眠るフィルの服を脱がし、少し迷ってから俺も服を脱いだ。汚れたフィルの服は後で洗おうとまとめてテーブルに置いておく。   「フィル、シャワールームへ行くぞ」   「んん……」    フィルを一息に横抱きにする。が、やはり意識のない人間を運ぶのには苦労した。頭はもちろん、だらりと垂れ下がるフィルの腕や足を何処かにぶつけてしまわぬよう、慎重に移動した。  備え付けのシャワールームはやはり狭かったが、今日のフィルは暫く抱きかかえていると、無意識でも俺から離れようとしないので、思いの外空間に余裕はあった。これで座って浴びることができれば良かったのだが、生憎と簡易的なシャワールームはそのような作りではない。お湯を出し、フィルの身体をまず洗う。   「んっ」    未だ僅かに上気した真っ白な肌が俺を煽る。  ……いや、だめだ。無心になれ。彼は眠っているのだ。それに起きていたとしても酔っている。手を出していいはずがない。  ついこの前、フィルが自宅の浴室で転んでしまったときだって、しっかり対応したはずだ。それと同じ。眠らせ、意識のないフィルは、病人や怪我人と一緒。  俺は何度も自分に言い聞かせた。    狭いシャワールームで立ったままでは、流石に意識のない相手を上手く洗うことはできなかった。高所からお湯を出したまま左手でフィルの肩を抱き支え、右手で汚れた下腹部を洗う。石鹸を手に取り、少し濡らしてから泡立て、その手を臍の下に擦り付ける。  流石というか……何というか……色素がなく華奢なフィルの白い肢体は、卑猥というよりはただただ美しかった。この分ならそういう気持ちを忘れられそうだと……思っていたのだが。   「ぁ、んッ……ぅ」   「待て、フィル……それは、まずいぞ。どこまで俺を試すつもりなんだ……」    洗ってやっていると、フィルのものがまた硬度を上げ始めて、俺は再度葛藤の渦に飲まれることとなった。真っ白な表皮の下から顔を出す赤い先端を目の当たりにして、思わず息を止めた。天を仰ぎたい気分だ。  先程は手探りで行っていたので、見ていたわけではない。  ……もう限界だった。   「……はぁ……すまない、フィル。許してくれ」    俺はまず、冷たいシャワー室の壁に手を当て、壁全体を人肌程に温めた。フィルの両腕を俺の肩の上から首の後ろへ回し、痕が残らないよう軽い粘土のような素材で一纏めにする。  精霊と人の絆である魔法を、こんな使い方をすることになるとは……  フィルの背を温い壁に預け、俺も壁に片腕を置き、いざ密着してみても……まだ迷っていた。    ……こんなことをして許されるんだろうか?  浴室で転んだフィルを助けたあの夜、自分の中の衝動を逃がす為にフィルにこっそり口付けたことは、今でも反省している。こんな方法で触れるのは、フィルにあまりにも申し訳がない……    しかし意識のないフィルがぽつんと俺の名前を呟いたとき、俺は考えることを止めた。  紅くて柔らかい唇に思い切って吸い付くと、先程散々そこを貪ったというのに性懲りもなく堪らない気持ちになって、俺は何度もフィルに口付けた。  意識がなく、薄く開いたままの唇に舌を捩じ込む。すると堰き止めていた感情が溢れ出して、それが俺を衝動的な獣に変えてしまった。   「フィル、好きだ……っすまない」   「ぁ……ぅ……んッ」    痛いほど勃ち上がった自分のものを、フィルのそれと重ねる。二つまとめて手の中に収め、意を決して握り込むと……恐ろしいほど気持ちが良かった。  石鹸の泡の滑りを借り、俺は手と腰を動かして、フィルの身体を壁に押し付ける。俺は最低だ。相手の気持ちも無視してこんなことをして。ましてやフィルは背中を治したばかりだというのに……   「あ、ぁ……ん、んッ」    フィルが小さな声を上げる。その声を吸い出すように唇に喰らいつきながら、俺は手を動かし続けた。  俺より一回りほど小さなフィルが、俺の裏側を押し上げる。僅かにフィルの魔力が流れ込んできたが、今更多少薄められたところで止まれるはずもなかった。しかし自分の魔力を流すわけにはいかない。それだけに意識を集中させて、あとはフィルだけ感じていれば良かった。      そこから出す体液にはどうしても、魔力が滲んでしまう。唾液や先走り程度ならば気合でなんとかなるが、流石に達する時は無理だ。  俺は多重霊格の王族として、性別に関係なく相手と番う方法を色々と教えられたものの、誰かと経験があるわけではなかった。  ただでさえ他色の魔力を流すことは摩擦痛を伴うのに、多重霊格の魔力を他人に流すことは拷問に近い。経験がないので実際に試したわけではないが、周りの大人たちから嫌というほど聞かされている。  フィルの魔力を大量に流すと、相手の魔力を薄めて昏倒させることができるそうだが、俺が本気で魔力を流すと相手は濁り、強烈な摩擦痛で最悪殺すこともできるだろう。  フィルは透明な至純の為、痛みを感じることはないはずだが、俺の魔力が意識のないフィルにどう作用するかはやってみなければ分からないし、こんな風に無理矢理染めてしまいたいわけではない。それこそ嫌われてしまう。    自分の出したものがフィルに掛からないように細心の注意を払いながら……俺は物凄く後悔していた。多少薄められた倦怠感もあり、俺は気を奮い立たせてフィルの身体を支えた。  終わった後、フィルの拘束を解いて身体を流し、身体と髪を拭いて簡単に服を着せ、なんとかベッドへ寝かせる。俺も自分を乾かして服を着た。  ベッドに潜り込むとすぐにフィルが俺に縋り付いてきて、深いため息が出る。   「やってしまった…………」    すやすやと眠るフィルを見ていると……罪悪感で死んでしまう気がする。  俺はそれから逃げるように目を閉じた。    珍しく動揺していて、俺はテーブルの上にある汚れた服のことも、フィルへの言い訳を考えることも忘れたまま、魔法で強引に自分を眠らせた。    

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