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第六章・5
そして屈託なく笑うギルの表情もまた、ジーグと共に暮らすようになってから変わっていった。
以前なら、こんな無防備な笑顔は誰にも見せなかったはず。
いつも冷静に、沈着に。
今、目の前にいる人間に、どんな表情を見せ、どんな言葉をかける事が最も効果的か。
私の敵に回らず、味方となる可能性を高める所作は、何か。
打算が常に付きまとう言動がすっかり身についていたギルが、久しぶりに素の自分を取り戻しつつあった。
そう、まだ少年の頃ギルは、年上の先輩・ルキアノスを無条件に慕い、敬愛していた。
白金の翼で常に先へ先へと飛んでゆく、聖獣・タンの神騎士の後を、必死で追っていた。
彼と肩を並べたい。
彼と同等の力を得て、この上ないパートナーとして共にファタルのために、聖地のために尽くしたい。
だが、それは到底不可能なのだと諦めた時から、ギルは次第に笑わなくなっていった。
本心を、誰にも明かさないようになっていた。
終いには、ルキアノスを堕落させようとまで思いつめたのだ。
あの聖人君子のルキアノス様の翼をもぎ取り、私のいる場所まで、生々しい常人のさまよう浮世まで堕としてしまおうと。
それは、巧くいったかのように思っていた。
ルキアノスは、ギルへの愛欲を抑えられないところまで追い詰められた。
ギルの前では、他人には決して見せない心の奥までさらけ出すようになっていた。
しかし、ルキアノスのさらす愛情は、ギルをもまた追い詰め始めた。
初めは、肉体関係だけに留めていたはずだった。
彼を抱き、彼に抱かれることがあまりにも蠱惑的だったから。
あまりにも心地よかったから。
今では、その心の内まで愛おしく感じ、悶えた。
まさか。
そんな、馬鹿な。
これでは駄目だ。自分をもっとしっかり持って、彼を見下ろしてやるのだ。
必死で、そう自分に言い聞かせたこともあった。
だがやはり、ジーグという存在を得てからのギルは変わっていった。
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