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第六章・7

 ある日二人は、騎士候補生の前で組手をしながら、打撃戦の指導を行った。  常に攻撃を仕掛けながら、拳の圧で押し切るパワータイプのルキアノス。  紙一重でかわし、相手に空振りの疲労を与えつつ必殺の一撃を放つギル。  質の違う両者の戦いは、このうえない手本になる。  どちらが、自分に合った戦い方か。  また、戦場の条件によっては双方を組み合わせた、多彩な攻撃も必要となる。  引き出しは、多い方がいいのだ。  実技演習が終わっても、興奮冷めやらぬ候補生たちだった。  ルキアノスやギルの戦い方を、それぞれ真似て体を動かしては、なかなか訓練場を後にしない。  ルキアノスが微笑ましくその様子を見ていると、ふいに視界が塞がれた。 「早く汗を拭かないと、風邪をひくぞ」  何と、頭からタオルを掛けてきたのはギルだった。  表情は柔らかだが、どこかいたずらっぽい眼差し。  それがルキアノスの胸を、ひどくときめかせた。 「あ、ありがとう。ギル」  ギルは、これまた魅力的ににっこり笑うと、そのまま背を向け行ってしまう。  思わずルキアノスは駆け寄り、その肩に手を置いていた。 「あの、さ。よかったら、今夜一緒に食事でもしないか」  明日ならまだしも、今夜、とは。  ルキアノスは言ったばかりのその口で、すでにしまったと後悔した。  日常を乱されることの嫌いなギルが、こんな突然の約束をスケジュールに入れるはずがない。  だが、そう言わずにはおられないほどの何かが、今のギルにはあるのだ。 「いいな。場所はどこにする?」  耳を疑った。  断りもせず。しかも、今後の予定を確かめもせずOKとは! 「どうした?」 「あ……。えっと、後で連絡するから。業後は、一緒に帰ろう。いいかな?」 「喜んで」  楽しみにしてるよ、のおまけまで付けて、ギルは去ってゆく。 (ギル、最近なにか良いことでもあった?)    今夜、本当にそう尋ねてみようかな、とさえルキアノスは考えた。

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