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第六章・8

 ルキアノス、驚いてたみたいだったな。  どぎまぎとした、先ほどの彼の様子を思い出し、ギルはくすりと小さく笑った。  自分でも、感じているのだ。  このところ、私は何だか明るくなったと。  それはジーグのおかげなのだ、とは充分に解っていた。  彼が傍にいてくれることで、どれだけ私が安らぎ、元気づけられているか。  そのおすそ分けを、ルキアノスに与えられるほどの、心の余裕ができているのだ。  我ながら、信じられなかった。  もちろん、懸案事項は残っている。  いや、残っているというより、目の前に高く分厚く立ちはだかっている。  ジーグの存在を、どのようにして明るみにするか。  いかにして、法皇にお許し願うか。  同時に、不気味さも感じていた。  双子の弟が地下室から逃げ出し、自我を手にしてから、かなり経つ。  私のもとで暮らし始めて、時が過ぎている。  だのに、法皇からは何のお叱りも、お咎めもないのだ。  絶対に、ジーグが今どこで何をしているかを知っているはずなのに。  泳がせて、様子を見るつもりか。  または、ある種の実験サンプルとして、データの蓄積に使っているのか。 (どちらにせよ、今後ただでは済むまい)    そう不安を抱えながらも、楽しい毎日を送っていた。  こんなに幸せでいいのか、と思った。  いずれ何か、罰が当たるのではないか。   しかし、今のギルはひどく心持ちが明るかった。  未来に、希望を持っていた。  何とかなる、いや、何とかしてみせる、と根拠のない自信を抱いていた。  法皇が動かないというなら、こちらから打って出る。  道は、ぼんやり立ったままでは拓けない。自らの力で、造るものなんだ。  そんな強気な考えが、浮かぶことすらあった。  だが、その方法が浮かばない。  いろいろと、頭の中でシミュレーションはするのだが、どれもいま一つ決め手に欠ける。  しかし、考えずにはいられなかった。  ようやく手に入れた、幸せのために。  ジーグのために。  ジーグのためなら、なんだってしよう。  たとえそれが、法皇様のお考えに沿わないものだとしても。  それだけの覚悟を固めるところまで、ギルの眼は、心は、前だけを見るようになっていた。

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