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第六章・9

 品のいいホテルのレストランで食べた懐石料理のコースに、ギルはひどく満足してくれたようだった。  突然、今夜のディナーに誘っても承諾してくれた、ギル。  後々振り返って、何かの記念日になればいいな。  そう考えたルキアノスは、奮発してそのホテルの一室も予約しておいた。  スウィートルームとまではいかないが、夜景がきれいに眺められる良い部屋を準備し、ギルをいざなった。 「懐石料理は、素敵だったな。見た目も美しいし、季節感を料理に取り入れる発想もまた、いい」 「気に入ってくれたなら、嬉しいよ」  そんなことを言いながらドアを開けて室内に入った。 「何たって、熱過ぎないところが最高だ。私は先だって『おでん』で舌を火傷したばかりだから」  おや、とルキアノスは意外に感じた。  おでんは、今夜食べた懐石や、市井の間でブームになっているお好み焼きと同じく、比較的最近になって聖地に導入された料理だからだ。 「ギルが今トレンドの『おでん』を食べるなんて。どういう風の吹きまわしだ?」  確かギルは、そんな流行りには興味を示さなかったはず。  ただ素直に、ルキアノスはそう問うた。 「無理やり食べさせられたんだ。あんなに熱いつゆが中から出てくるなんて。完全に、報復されたよ」 「それは災難だったなぁ。誰に食べさせられたんだ? ニネットか?」  ルキアノスがそう言った途端、ギルの顔に緊張が走った。  口が滑った。  どうする?  そうだ、ニネットだと、ここはお茶を濁すか? 彼には後で、口裏を合わせてもらうことにして……。  いや、これはいい機会じゃないのか? ルキアノスに、ジーグの存在を打ち明ける。そして、彼がこの社会に受け入れられるよう、力を貸してもらう……。

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