216 / 216
エピローグ
ギル
君はどこに墜ちたんだい?
もう 死んでしまったのかな……
羨ましいかな 少し
俺はまだまだ 死ぬことを許されない
13年後 ファタルが真に聖地へと御降臨あそばされる お手伝いをしなくちゃならないんだ
それまで 君には 会えない
ルキアノスはエルンストの肩に手を置き、眼を合わせた。
彼の眼の中から、その記憶をエルンストは捉えた。
『その奥にいるというファタル、ここにお見せいただきたい!』
『反逆者、ルキアノスを追え!』
我に返ったエルンストは、ルキアノスの見せたヴィジョンから、腕の中の赤ん坊が真のファタルと知った。
「女神」
しかしファタルは、まだ無垢なあどけない赤ん坊だ。誰かの庇護が必要な、無力な存在だ。
「頼む」
ルキアノスは、薄れゆく意識を振り絞ってエルンストに呼びかけた。
「ファタルを、何とか守って欲しい」
「13年後、ファタルを守る真の騎士たちが現れる」
数条の流星が、ゆっくりと天を駆けてゆく。まさにあの星が、その騎士たちなのだろうか。
(だとしたら、まさしくこれらは『ファタルの予言書』どおりということになる!)
エルンストは、感嘆の声を上げていた。
今一度、若者へと視線を落としたエルンストは、やや焦っていた。彼は傷を負っている。早急に手当てが必要なのだ。
しかし、そこにはもうルキアノスの姿はなかった。
若者の後には、聖獣・タンの甲冑だけが残されていた。
それは予言書に書かれた、身を挺してファタルを救った人間。
「聖獣・タンの神騎士!」
彼は命を賭して、ファタルを護ったのだ。ならば……この私も!
引き締まったエルンストの顔と決意だったが、赤ん坊の声と笑い顔は本当にあどけない。
女神と言うより、まさに可愛らしい赤ちゃんのそれだった。
エルンストは、我知らず笑顔になっていた。
ルキアノス
君は深い眠りについたんだな
13年後 再び目覚める時まで
叶う事なら 私も目覚めたい
そしてジーグを救いたい
彼の魂を 救いたいんだ
だけど 信じてくれ ルキアノス
私は 君を 愛している
それだけは 信じてくれ
愛してるよ ルキアノス
ギルの遺体は、見つからなかった。
そして彼の行方を、誰も知らない。
ともだちにシェアしよう!