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第十章・22
ダニエル=エルンストは、ヒマラヤ山脈の中にある目的地へとたどり着いていた。
異世界の文献と思われる『ファタルの予言書』。
その解読をライフワークにしていたエルンストだったが、極めて具体的な描写に基づいて訪れた地が、ここなのだ。
クレバス下に降り、ガイドとして雇っていたプロの登山家すら置いて、ひとり奥へ進む。
このような危険行為は、絶対にこれまではやった事の無いエルンストだったが、今回だけは一人で確かめたい、といった気持ちがあった。
「これは、氷とは違う。鉱物の大きな結晶?」
見た事も無い景観が、拡がり始める。そして、洞窟内のはずが、雪がちらちらと……。
「いや、雪ではない。白金の羽毛」
軽く興奮してきたエルンストは、歩みを速めた。
突然視界が開け、白金の光が眼を刺した。その先に、時計台のような高い柱状の建築物があり、12の画が記してある。
(12聖獣を表すモニュメント。ならば、ここが!)
エルンストは、片時も離す事の無い予言書を、震える手でめくった。
「ファタル降臨の地!」
そこに、エルンストは自分以外の者が立てる音を聞いた。
泣き声。……赤ん坊の泣き声?
これも何かを示唆するものだろうか。大きな白金の翼が地面に横たえてある。泣き声は、その下から聞こえて来るらしい。
翼に耳を当て声を確かめると、エルンストはそれをどけた。
「銀色の繭、か?」
翼の下からは、白金の楕円形が現れた。驚く事にそれはスライドしてひとりでに開き、中には確かに元気に泣く赤ん坊の姿があった。
「なぜこんな所に」
しかし、驚くべきことはもう一つ残されていた。
その場には、エルンストと赤ん坊、そしてもう一人白金の甲冑を身に纏った若者の姿があったのだ。白金の翼持つ若者が。
「おい、君! しっかりしろ!」
瀕死の若者の名は、ルキアノスだった。
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