215 / 216

第十章・22

 ダニエル=エルンストは、ヒマラヤ山脈の中にある目的地へとたどり着いていた。  異世界の文献と思われる『ファタルの予言書』。  その解読をライフワークにしていたエルンストだったが、極めて具体的な描写に基づいて訪れた地が、ここなのだ。  クレバス下に降り、ガイドとして雇っていたプロの登山家すら置いて、ひとり奥へ進む。  このような危険行為は、絶対にこれまではやった事の無いエルンストだったが、今回だけは一人で確かめたい、といった気持ちがあった。 「これは、氷とは違う。鉱物の大きな結晶?」  見た事も無い景観が、拡がり始める。そして、洞窟内のはずが、雪がちらちらと……。 「いや、雪ではない。白金の羽毛」  軽く興奮してきたエルンストは、歩みを速めた。  突然視界が開け、白金の光が眼を刺した。その先に、時計台のような高い柱状の建築物があり、12の画が記してある。 (12聖獣を表すモニュメント。ならば、ここが!)  エルンストは、片時も離す事の無い予言書を、震える手でめくった。 「ファタル降臨の地!」  そこに、エルンストは自分以外の者が立てる音を聞いた。  泣き声。……赤ん坊の泣き声?  これも何かを示唆するものだろうか。大きな白金の翼が地面に横たえてある。泣き声は、その下から聞こえて来るらしい。  翼に耳を当て声を確かめると、エルンストはそれをどけた。 「銀色の繭、か?」   翼の下からは、白金の楕円形が現れた。驚く事にそれはスライドしてひとりでに開き、中には確かに元気に泣く赤ん坊の姿があった。 「なぜこんな所に」  しかし、驚くべきことはもう一つ残されていた。  その場には、エルンストと赤ん坊、そしてもう一人白金の甲冑を身に纏った若者の姿があったのだ。白金の翼持つ若者が。 「おい、君! しっかりしろ!」  瀕死の若者の名は、ルキアノスだった。

ともだちにシェアしよう!