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触って、キスして、愛し合って⑴

「緊張してるな」  たったひとこと、そう言われただけで、今まであんなに動いていた口がピタリと止まる。あぁそうだよ、緊張してるよ、悪いかよ。本心は決して口から出ることはなく。   ***  スプリングを軋ませることさえ躊躇うような沈黙が突然部屋を満たす。来たままのスカジャンの衣擦れさえ気を遣って一気に体が硬くなる。  マコトはこっちを向いて、ふふふと小さな音で笑った。 「自分から誘ったのが、そんなに照れ臭かったのか?」 「……….ち、違ぇよ」  マコトの目が見られなくて視線を逸らす。スカジャンが擦れる音が、耳をつんざくほど大きく聞こえる。その音よりも大きいのは心臓の音。ばくばくばくばく、永遠に治らないんじゃないかってくらい早く刻んでいるそれを、どうにもこうにもいなしきれない。  今回は、俺からホテルに誘った。  土曜日、学園からあてがわれた男子4人部屋、いつもは各々暇を持て余しているリョウタもガク先輩もいなくて、俺とマコトのちょうど2人きりだった。リョウタとガク先輩の2人とも予定があるから帰ってこないとわかった瞬間、じゃあエッチするかなって自然と浮かんできたのだった。  リョウタとガク先輩に関係を秘密にしている俺たちには、エッチができるチャンスというのはそんなに多くない。好機は逃さずいないと最悪1ヶ月お預けだ。それは付き合いたてとしてはあまりにも悲惨だった。  そういうわけで俺はマコトからの誘いを待った。一日中。しかし、マコトは一向に俺に話しかけてこない。同じ空間にいるのに漫画や動画ばかりを相手にして、俺の方を見向きさえしない。夕方、夕飯になったら寮母さんが呼びにくるというのにそういう雰囲気にさえならない。焦れて焦れて焦れて、夕飯の時間のチャイムが聞こえてきた時、あっと思って、それでマコトの服を掴んだ。我ながら女々しいと思うが、洋服の背身頃を軽くつまむ程度の掴み方だったが。  それで掴んだのはいいけどなんて言えばいいのかわかんなくて、ピッチャー・ド真ん中、「明日ホテル行こう」って。マコトはちょっと驚いた顔をした後、大変嬉しそうに笑って快諾した(ついでにおでこにキスをしてくれた。単純に嬉しい)。  夕飯を食べて、外出許可をもらって、そうしてやってきたホテルで、ーーー俺から抱いてくれと言ってやってきたホテルで、俺が緊張しないわけがないじゃないか。 「そんな、ガチガチにならなくてもいい。風呂一緒に入るか?」 「……いい、やることある」 「やらせてほしいんだが……」 「や、無理、まだ無理……」  準備にはどうしても洗浄が伴う。汚い、なんて思われて嫌われたら、という危惧はまだあった。そんなことを言えば、マコトはきっと不名誉なことだと言うのだろうけど、分かってはいるけど、まだそこまで全て曝け出す覚悟がなかった。 「どうしても?」 「どうしても」  マコトはすこし寂しそうな顔をして、分かった、というと、先に風呂に入った。  ホテルの部屋は、2人用のベッドが1台ある以外はほとんどビジホと変わりないもので、当然シャワーにマジックミラーなど使われていなかった。枕元になにかスイッチがあって、試しに押してみたら照明の明るさがが4段階くらいに調整できるものだと分かった。豆電球程度の明るさにして、スカジャンをベッド側の椅子に放り投げる。  シャワーの音が聞こえて、ようやくため息がつけた。体の力が抜けたのがありありと分かって、自分がどれだけ硬くなっていたのかを知る。  相手を待っていると、なんとなくおセンチな気分になるのは俺だけだろうか。初めて繋がった時を思い出しながら思う。ひと月前くらいだろうか、何日かに分けて解されたそこに、マコトの一部が入ってきた時をまだ鮮明に覚えている。痛かったけど切れなかったし、血も出なかった。怖かったけど、マコトが頭撫でてゆっくりゆっくりしてくれたから嬉しかった。いっぱい褒めて、愛してるって言ってくれた。幸せだった。マコトは俺の中で出したけど、俺はとうとう中ではイけなくて、前を触ってもらって出した。初めての時はそれで終わった。初めてでこれなら上出来なのだとマコトは言った。急いで傷つけたりしたら俺がきっと次にできなくなってしまうと気弱そうに笑ったから、不満も不安も何にも言えなかった。  2回目もマコトが誘ってくれて、その時もマコトはゴムをかぶせて中で出したけど、俺はやっぱり前を触らないとイけないままだった。  入ってくる感覚が気持ちいいのはわかる。体を裂かれるような衝撃も、頭から足先まで突き抜けるような強烈な快感も知っている。なのに中でいけないのはやっぱり俺に才能がないからだろうか。できれば、ナカで、あいつの熱を感じてイきたい。と、どこまでも淫靡な願いがあった。

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