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「っ、ふ…」
「な、永野…?」
永野が、泣いていた。小さな肩を震わせて、いつも全く動かない眉を下げ、唇を紡ぎ、目からボロボロと涙を零していた。
周りの生徒達も、驚いた様に永野を見ていた。
「な、永野!」
俺は落ちたパンなど気にもせず、永野に一目散に駆け寄った。
「ど、どうした永野!お腹痛い?ほ、保健室…ぶは!」
「…くがの、馬鹿…」
「ちょ、食べ物は大事に…!」
すると思い切り顔面にパンを投げ付けられた。
それでも泣き続ける永野に俺は混乱状態。ギャラリーも増え始めてしまい、俺はとりあえず永野を抱き上げて、いつも昼食を食べていた空き教室へと駆け込んだ。
「永野、どーした?」
「…ずび…」
「永野さーん?」
それから数分。永野を膝上に抱っこし背中を撫でながら必死にあやしていた。
永野はずびずびと鼻をならしながら、ずっと黙り込んだまま。
何で泣いているのかさっぱり分からない俺。心配な反面、久しぶりに触れた永野に内心ドキドキとしていた。
沈まれ俺の煩悩。今はそんな雰囲気ではない!
「…久我、最近、へん」
「え?」
「何で教室、来ないの」
涙で濡れた真っ赤な目で、俺を見る永野。
そう、俺はこの言葉を待ってた。永野の気を少しでも引きたくて。
でも、こんな風に泣かせたいわけじゃ無かった。
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