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第9話

暁星の肩に額を押し付けて、 僕は男泣きに泣いた。 悲しいんじゃない。 寂しいんじゃない。 後悔じゃない。 どれにも当てはまらない、名前のない感情がこみあげてくる。 そして、それら全てが去って行った。 そうして残ったのは、……  何も、残っていない。 何も。 空虚でもない。 砂漠でもない。 何もない。 真っ白な、そしてとても静かな……  「みっともないところ見せちゃったな」 「大丈夫だよ、兄さん。  会えて、よかったね」 暁星の指示で優斗が飲み物を持ってきた。 それを飲むとずいぶん落ち着いた。 その夜は兄弟3人、優斗のマンションで過ごした。 翌朝暗いうちに出発して、ずいぶん遠回りだけど、もう一度学園都市を訪れてみた。 セージのアパートに、もう一度行かずにいられなかった。 昨日の朝去る時までとは違う。朽ち果てる寸前の、蔦のからまった廃墟があった。 街路の桜だけは、昨日と同じ満開に咲いている。 引き返して来なければよかった。 もう死んだなんて知らなければよかった。 そうすれば、 また会えると思いながら生きていけるのに。 セージ、 会いに来てくれたんだ……  ずっとつまらない意地を張ってた。 ごめんな。ごめんな。 僕も本当は会いたかったんだ……  涙で景色がゆがんで来る。 ありがとうな……  会えて、本当に、 本当に嬉しかったよ……  その足で成田空港まで走り、コンビニでコーヒーを買い(今度はスムーズに買えた)、レンタカーを無事に返却して、バリ・デンパサール空港行きの便に乗った。 僕の日常の続きがまた始まる。 次の帰国の予定は今のところ、ない。

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