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第8話
「兄さん、忘れたの?
誠司さん、亡くなったじゃない」
えっ?! そうだっけ?
……言葉が出てこない。
そうだったっけ?
そういえば、何年か前にFacebookの同窓会グループでそんな知らせがあったような……?
「忘れたの?」
僕は急いでポケットから携帯電話を取り出し、Facebookのグループ掲示板を辿った。
確かに、書き込みはあった。
見逃していたのか?
しかしよく見ると、僕自身もコメントを書き込んでいるじゃあないか。
「ご冥福をお祈りします」
と。
おかしい。すっかり忘れていた。
すっぽり抜け落ちていたというか。
全く覚えていなかった。
3年前、赴任先の九州の病院で闘病の末、家族に看取られて病死したのだった。
同窓生を代表して九州在住の友人が参列してくれ、葬儀の写真もアップされている。
そういえば、そんな事があったんだっけ……
全然、忘れてた……
カウンターの中で優斗とルイ君が青ざめている。
僕はこみあげてくる感情をこらえきれなくて、両手で口を覆った。
胸が、胃が、全身が締め付けられる。
涙と嗚咽が両手の間から漏れてしまう。
「っ……ごめん、ちょっと……」
暁星が目を閉じて、静かな声でゴニョゴニョと何か唱えだした。
僕も目を閉じた。
目を閉じたまま昨日から今朝までの出来事を辿った。
柔らかい髪、
唇の感触。
笑う声、僕を呼ぶ声
楽しそうな笑顔
月明かりに浮かぶ、白い、しなやかな身体
感じてる声、表情
いつもみたいに手を振って見送る姿。バックミラー越しにだんだん小さくなっていく……
この手のひらに、瞼の裏に、
こんなに生々しくリアルに今も感じるのに。
確かに今朝まで一緒にいたよな?
セージ、
お前は本当に、もう、いないのか……?
そうだ、
僕の誕生日のために、カレーを作る準備をしていたと言っていた。
約束したじゃないか、って。
僕はすっかり忘れていたのに……
閉じた目から涙が滴り落ちていく。
やっと涙が止まった頃、あたたかい手が震える僕の肩を抱いた。
「兄さん、もう目を開けていいよ」
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