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第1話
「大丈夫ですか? 森本先生」
倉田彰は心配そうに問いかけて、ふらついた森本の体を受け止めた。
「ん……ちょと、ぼおっとして……」
いつもよりゆったりとした口調でそう答えながら、森本は大人しく倉田の腕の中に収まっていた。すっかり日が暮れた後の校舎には、倉田と森本以外、人の気配はなかった。
2人きりの職員室で、自分の思惑どおりに事が進んでいくのを感じ、倉田は心の中でほくそ笑む。
「疲れてるんじゃないですか? 森本先生、毎日遅くまで頑張ってるから」
「いや……そんなこともないんですけど……」
その言葉とは裏腹に、森本はもう立ってもいられないようで、そのままふらつく体を倉田に預けてきた。優しく森本の体を抱き締める。森本の耳元で囁くように話かけた。
「ちょっと休憩したらどうですか? 少ししたら起こしますよ」
「いや、でも……」
「僕もまだ仕事が残ってるんで。明日は土曜ですし、少しくらい遅くなっても大丈夫だし、待ってますよ」
「……そしたら……すみません、ちょっと休ませてもらってもいいですか?」
「もちろん、いいですよ。保健室、行きます? ベッドありますし」
「いや、ソファで……」
「だけど、ここのソファ、小さいですよ。保健室の方がいいんじゃないですか?」
「でも……そこまで歩けるか分かりませんし……」
「僕が連れてきますよ」
「そんな……迷惑かけられま……せん…し……」
会話はそこで終わった。森本の意識が完全に落ちたからだ。眠りに入った森本を両手で抱き上げる。細くても筋肉質な森本の体はもっと重いかと思っていたが、意外にも小柄な女のように軽かった。
微かに、清潔感のある石けんのような匂いが森本から漂った。
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