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第7話

 大きく溜息を吐く。両手で顔を覆って俯いた。これからどうしたらいいのだろう。ここにいたって苦しいだけだ。また森本と離れたら、森本から逃げたら落ち着くことができるのだろうか。 「倉田……先生?」  突然名前を呼ばれ、驚いて顔を上げた。横になったままこちらをぼんやりと見る森本と目が合った。  思ったよりも目を覚ますのが早かった。もし森本を襲っていたら途中で起きてしまった可能性もあっただろう。  そう思ったことは顔には出さず、倉田は笑顔を見せた。 「少しは休めましたか?」 「はい……。だけど……ずっといてくれたんですか?」 「……いや、起こそうかと思って来たところです」 「…………」  森本は倉田の返事には答えず、床へと視線を移した。その視線を追う。倉田はしまった、と心の中で舌打ちする。そこには、倉田が床に落としたままだったスーツの上着とネクタイがあった。  きっと今、森本の頭の中は疑問だらけに違いない。起こそうと思ってたった今来た人間が、上着を脱いでネクタイまで取って床に落としているわけがない。よく考えれば、こうして椅子に落ち着いているのも不自然だ。  気まずい沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは森本だった。 「……今、何時ですか?」 「あ、えっと、10時前ぐらいですかね」 「え?? もうそんな時間ですか??」  森本が慌てて体を起こした。 「1時間ぐらい寝てたから」 「そんなに……すみません、ほんとに。あの、すぐ帰る支度をするので」  森本が急いでベッドから降りた。靴下と靴を履いて立ち上がる。が、急に勢いよく立ち上がり慌てて歩き出したためか、倉田の座っている簡易椅子に足を引っかけてバランスを崩した。 「わっ」 「ちょ……」  2人同時に声を出す。倉田はとっさに腕を伸ばして森本を抱き留めた。 「すみませんっ!」  森本が動揺したのか急いで顔を上げた瞬間。ごっ、と鈍い音がした。 「いっ!!」  森本の鼻の頭と倉田の顎が思い切りぶつかった。森本はその場で鼻を押さえてうずくまった。 「大丈夫ですか??」 「……はい……」  赤くなってるかも……。そう言って、森本が保健室に備え付けてある鏡を覗きにいった。ついでに部屋の電気も点ける。  なんとはなしに森本の後ろ姿を眺めていたが、森本が鏡を覗いたままいつまで経っても動かないので、不振に思って声をかけた。 「森本先生……?」 「…………」  森本に近付いた。鏡越しに森本の視線を追う。倉田は、はっとして足を止めた。

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