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第6話

 カチッカチッと壁時計が立てる音が妙に耳に付く。相変わらず気持ち良さそうに眠り続ける森本を見つめたまま、倉田は眉を寄せた。  今夜、森本が手に入ったら。そのまま去るつもりでいた。森本ともう二度と会わないようなところへ。仕事も辞めて、過去を捨てて、何もなかったかのように残りの人生を過ごすつもりでいた。  ところがどうだ。計画は順調だったのに。完全な自分の気持ちが萎えるなんて。  唇を重ねた時の、反応のなかった森本を思い出す。  倉田の中に息苦しさが広がる。ぐっと何かに胸を掴まれたかのように苦しい。森本を襲おうとした瞬間に、自分の気持ちに気付くなんて思ってもみなかった。  自分はただ、森本に欲情していただけだと思っていた。理由は分からないが、森本に触りたい、森本の体を手に入れたい、ただそれだけの生理的な欲なのかと思っていた。  まさかそれ以上のものを求めているなんて。  森本を襲おうとした時に感じたあの虚しさは、自分のしていることが意味のないことに気付いたからだ。反応のない森本を無理やり襲ったところで、「本当に欲しかったもの」は手に入らない。きっとそういうことだったのだろう。

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