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プロローグ

 1ヶ月前。あいつと別れた。別れたと言うよりは突然終わった、と言った方がしっくりくるかもしれない。劇的なことも、修羅場的なものも何もなかった。ただ、あいつが消えただけ。  女みたいにか細くて壊れてしまいそうな奴だった。その体格に似合わず芯の強い、真っ直ぐな性格だった。明るく振る舞うくせに、笑顔はいつも寂しそうだった。それは3年付き合っても変わらなかった。  いつも俺に気持ちをぶつけて、求めてきたあいつ。けれど、俺はそれに応えることができなかった。痛いほど感じていたのに。分かっていたのに。心のどこかで躊躇する自分がいた。  自分たちの関係は。触れ合っていても。抱き合っていても。どこか不安定で。  きっとそんなのは最初からあいつも感じていたのだろう。だから、こうなることはなるべくしてなったことだと思えた。そしてそれは、全て自分が悪いのも分かっていた。  そう、頭では分かっているのに。 『哲也さん』  自分の名前を優しく呼ぶ、笑顔のあいつが脳裏に浮かぶ。 『俺のこと、好き?』  冗談めかした風に聞いてくるくせに、声に混じる不安げなトーンが俺の耳にざわつきながら入り込む。それが嫌で。そのざわざわしたモノに自分ががんじがらめにされるのが怖くて。 『何言ってんの?』  そんな言葉でいつも誤魔化していた。素直に答えたら。あいつを、あいつの全てを背負わなければならないような気がした。  あいつはいつもの寂しそうな笑顔を見せてわざと明るい声で答えた。 『ごめん。何でもない』  その、寂しそう笑顔が離れない。何をしていても。どこにいても。  俺は馬鹿だった。失ってから、自分がとっくの昔に覚悟していたことに気づくなんて。  でももう、あいつは帰ってこない。自分の意志で出て行ったのだから。どれだけ今、俺が求めようと、戻ってくるはずはない。  全てが手遅れだった。

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