17 / 25

第16話

 その間に、哲也はタクシーを呼んで栗原に電話をした。栗原はワンコールで電話に出た。 『どうだった?』 「うん、大丈夫。今、陸と一緒。タクシー呼んだ」 『そうか……良かったな……で……陸くん、覚えてた?』 「ああ」 『そうか』  栗原の声が安堵を含む声音に変わったのが分かった。 『タクシーなんて呼ばなくても、俺が迎えに行ってやったのに』 「いいよ。もう遅いし。これ以上お前に迷惑かけられないだろ」 『……お前さぁ……家帰ってから、いきなり陸くんとヤるつもりじゃねぇだろうな』 「はあ? 何言ってんの? お前」 『いや、だって。わざわざタクシー呼んで、俺が一緒だったら邪魔みたいな感じだし?』 「……そんなの今、考えてるわけねぇじゃん! 馬鹿じゃねーの」 『いや、だって、感動の再会なわけだし?』 「再会できたって言っても、根本のところはまだ解決もしてねぇし」  そう言って、ちらっと陸を見ると、陸がきょとんとした顔をしてこちらを見返してきた。 『あ、そうだったな。お前、陸くんに振られてたんだったな』 「……お前、覚えてるくせにわざと言ってるだろ」 『は? 何のこと?』  こいつ……。  わざとらしいとぼけた声出して。小学生からの付き合いだからよく分かる。栗原は今、拗ねているのだ。自分だけ仲間はずれにされたと思って。 「栗原」 『えー?』 「ありがとな」 『…………』 「すげぇ、感謝してる」 『……今度、焼き肉奢れよ』 「分かった」 『しょうがねえから、そこに住んでる最低野郎のことは俺が処理しといてやるわ』 「だけど……」 『いいから。俺に任せとけって。俺だって今回のことは結構ムカついてるしさ』 「おい、お前、犯罪者だけにはなるなよ」 『大丈夫だって。逆にお前になんかさせたら確実に死ぬだろ、あいつ』 「そうだな……。楽には死なせねぇだろうな」 『だろ?だから、任しとけって』 「……分かった」  栗原と簡単に挨拶を交わして携帯を仕舞う。陸の方を向いて確認した。 「陸。お前の荷物は?」 「……全部あいつに取られてて、どこにあるかも分からないんだけど……」  2人はとりあえずタクシーが来るまで部屋を荒らしながら陸の荷物を探した。が、なかなか見つからない。ここではないどこかに隠したのか、捨ててしまったのだろうかと諦めかけた時。 「哲也さん、あった!」  陸が、ベッドの下の奥深くに黒のビニール袋に入れて隠されていたバックパックを見つけた。あの日。陸が家を出て行った時に持っていったバックパックだった。中を確認すると、財布はそのまま入っていた(現金は取られていたが)。しかし、携帯は見当たらない。 「陸、携帯はどうした?」 「……たぶん、あいつが捨てたんだと思う。誰とも連絡が取れないように」 「そうか……」 「ごめんね、哲也さん。哲也さんからもらった携帯なのに」 「そんなのいいって」 「でも……」  哲也は、前と変わらない、妙に真面目なところのある陸にふっと笑って、思わず陸の頭を撫でた。 「相変わらずくそ真面目だな、陸は」  そう言うと、陸もふふっと笑顔を見せた。ふと真面目な顔になってそのままじっと哲也の顔を見つめる。 「どうした?」 「……哲也さん。ありがとう」 「え?」 「俺を探してくれて、迎えにきてくれてありがとう」 「そんなの……」  当たり前、とは言えなかった。なぜなら2人はもう別れているからだ。陸が望んで出て行ったのだから。哲也が恋人のように振る舞うことはもうできない。もし自分が今でも陸の恋人なら。陸が求めてくれているのなら。陸を抱き寄せて思い切り抱き締めるのに。今の自分にはそれができない。  タクシーが来たことを知らせる短いクラクションが聞こえた。哲也は陸に静かに笑いかけた。 「行こう」

ともだちにシェアしよう!