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第15話

 狭い6畳一間ぐらいのアパートだった。玄関を開けてすぐ右手に台所があり、真正面に扉1枚隔ててリビングと寝室を併用しているらしい部屋があった。台所とリビングを分ける引き戸は開けられていた。  哲也は靴を脱ぐことも忘れて、土足のまま上がり込んだ。真っ直ぐに陸の元へと向かう。 「哲也さ……」  陸が哲也の名前を呼び終える前に、陸を力任せに抱き締めた。 「……ごめん」 「…………」 「すぐに助けにこれなくてごめん」 「……っ」  陸がぐっと哲也の胸に顔を押しつけてきた。陸の体が震えだす。声も出さず、息を殺して泣いているのが分かった。泣くのを我慢する癖がついている陸がどうしてものときにする泣き方だった。  しばらくの間、そのままの状態で抱き合っていた。震える陸の体から段々と力が抜けていく。ようやく陸が落ち着いて、そっと顔を上げた。泣きはらした目でじっと哲也を見つめる。 「俺のこと、思い出してくれたんだな」 「……ここに連れてこられてすぐ思い出したんだけど……。もう、逃げられなくて」  そう言われて、哲也は改めて陸の全身を見た。左足首に拘束用の足かせが付けられていた。チェーンで繋がっており、それがベッドのパイプ部分に接合されている。  ベッドの周りの陸が動ける範囲内に、空になったコンビニ弁当の箱や、ペットボトル、あと、介護用に使うような簡易トイレのようなものも置いてあった。  その、まるでペットか何かを扱うような状況に、哲也は益々不快な気持ちになった。 「細かいことは後にして、とりあえず、ここから出よう」  そう言って、足かせを外そうとしてみるが鍵付きタイプのもので、鍵がないと外せなかった。もちろん鍵は見回せる範囲にはない。  しかし、その足かせ自体は安物っぽく、薄い合成皮か何かでできていたので、頑丈なハサミさえあればなんとかなりそうだった。 「陸。ハサミないか?」 「キッチンに肉切り用のハサミがあると思う」  ベッドから降りてキッチンへとハサミを探しにいく。あの足かせはSMとかの娯楽用に見えた。きっと道具など使えば陸でも外すことができただろう。  だからチェーンで陸の動ける範囲を制限して、その範囲には必要最低限のものしか置いてなかったのではないか。  肉切り用のハサミは引き出しから見つかった。それを掴んでベッドに再び戻ると、足かせの皮の部分を陸の足首に傷つけないように慎重に切っていく。するりと陸の足首から足かせが滑り落ちた。 「陸。他に服は?」 「……ジーンズがどこかにあると思うけど……隠されてるから分かんなくて……」 「ほんと……ムカつくわ」  哲也は部屋がぐちゃぐちゃになるのもお構いなしに、部屋のあちこちに怒りをぶつけながら陸が着られるような服を探した。洋服ダンス用に使っているらしい、カラーボックスの中に、スウェットの上下が出てきた。  男の物を使わせるのは不本意だが、それよりも早くこの不快な場所から出たい。 「陸。悪いけど、これで我慢してくれる? 帰ったらすぐ着替えたらいいから」 「うん、分かった」  陸はスウェットを受け取ると素早く着替えを済ました。  

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