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第14話

 栗原に送ってもらい辿り着いたのは、今時珍しい2階建ての古びた木造アパートだった。そこの1階の一番奥の部屋。そこが、例の最低野郎の部屋だった。一緒に付いて行くという栗原の申し出を断って1人でそのアパートへと近付いていく。  栗原から今夜そいつは夜勤だと聞いているので不在なはずだったが、もちろん部屋には鍵がかかっているだろうし、陸が素直に開けるとも限らなかった。  とりあえず玄関の前まで来てみると、部屋から灯りが漏れているのが分かった。陸がいる。それだけで、哲也の気持ちは落ち着かなくなった。  そっとノックしてみる。  しばらく待ったが、何の反応もなかった。そりゃ、こんな真夜中の訪問者を、陸じゃなくとも誰だって快く受け入れてはくれないだろう。  でも、哲也には分かる。部屋の中で息を殺してこちらを伺っている陸の気配がする。  どうしようかかなり迷った。もし、陸が哲也を思い出していなければ、陸をここから連れ出すのは難しいかもしれない。いつぞやの他のやらしいおっさんたちと一緒に扱われたように、ここに住む最低野郎と同類だと思われる可能性が高いのではないか。  でも。 『陸くん? そっか……いい名前だね』  そう哲也が言った時の、陸の初めての笑顔を思い出す。  そうだ。もし、陸が覚えていなかったら。また一から、辛抱強く、陸と向き合えばいい。時間は朝までたっぷりあるのだから。  哲也は覚悟を決めた。  今度は少し強めにドアをノックする。 「……陸?」  部屋の中に聞こえるように、ドアに顔を近づけて陸の名前を呼んだ。  数秒の沈黙の後。 「……哲也さん?」  か細い声で、自分の名前を呼ぶ声が確かに聞こえた。哲也の胸がぐっと鷲掴みされたかのように苦しくなる。  思い出していた。 「陸……開けてくれ」 「……できない」 「……なんで?」 「縛られてて……。玄関まで行けない」  縛られている?哲也は思いっきり眉を潜めた。  あの野郎(会ったことないけど)……殺すっ!!  顔も知らない相手に思いつく限りの悪態を心の中で吐きながら考える。  さて、どうしようか。  無理やりドアを壊してもいいけれども。真夜中だし、そんな音でも立てようなら自分が警察に先にお世話になるかもしれない。 「ん?」  ふと玄関下にある変な猫の置物に目がいった。そこでふとある考えに至る。もの凄くベタだけれど……。  まさかな。  そう思いながら。その猫の置物を持ち上げて下を覗くと。  まじかよ。  置物の裏にテープで鍵が貼り付けられていた。何かあったときのためのスペアーキーだとは思うが、素人の哲也にこうもあっさり見つかるようなところに隠しておいて意味があるのだろうか。とりあえず、今の状況には好都合だった。  哲也は、鍵を置物から剥がして、置物を床にそっと置いた。少し緊張しながら鍵穴に鍵を差し込んだ。ゆっくりと右に回すと、かちり、と小さな音がして解錠された感覚があった。  ノブを掴んで、回す。そっと奥へと押すと、扉が開いた。  開いた途端。 「陸……」  リビングにあるベッドの上で、長袖のTシャツと下着だけを身にまとった陸と目が合った。

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