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第34章
「ずっとお前と遊びたいなって思っててさ。そしたら、踊子もって」
石蕗は繁華街を歩きながらにこやかに言う。
赤や緑、白に銀と言ったクリスマスカラーに彩られた街は高揚感を煽っている。
しかし、吉野は無表情で豊高は罰の悪そうな表情だ。高身長の石蕗が頭一つ分背の低い男子と更に頭一つ分低い女子を引き連れ歩く様は、不機嫌で小さなきょうだいの面倒をみている兄のように見えた。
「センパイは、あ、石蕗先輩は、いいんですか、そういうの」
「超嫉妬する」
一瞬真顔になりどきりとしたが、すぐ笑顔に戻る。
豊高は赤面しそうになり、マフラーを引き上げる。しかし、横から吉野の大きな瞳が覗き込む。
「・・・・・かわいい」
逃げ場はない。豊高は帰りたくなった。
「あー腹減った。何食べる?」
「なんでも・・・・・」
「私も」
「じゃああそこで」
石蕗はチェーン店のファミレスを指差す。
店内に入るとむわりと暖房の熱がまとわりつき、食べ物の匂いが鼻腔を通って空腹感を刺激する。
豊高はドリアを単品で注文し、少食だな、と石蕗を驚かせ、そんな石蕗は吉野に
「・・・・・卓、貴方が食べ過ぎなの」
と呆れられた。
「普通だって」
所狭しと置かれたチキンとフライドポテト、さらにドリアに豊高も若干胸焼けした。吉野はペスカトーレスパゲティにフォークをくるくる巻きつける。
「絶対おかしい。運動しないのになんで太らないの?」
「はあ?運動ならお前ぐふっ」
机の下で何やら鈍い音がしガタンと机が揺れた。
「下品」
吉野は顔を真っ赤にさせていた。
豊高はホワイトソースとミートソースを絡めたドリアを口に運びながら、やることはやっているのだなと石蕗をちらりと見る。
腹を押さえながら悶絶する石蕗と冷たい視線を送る吉野を、どこかテレビを視聴する気分眺めていた。
すると、吉野と目が合った。
吉野は目を伏せごめんね、と呟く。
「え?」
「私たちだけ喋っちゃって」
「いえ、見ていて面白いですよ」
吉野は照れ臭そうに、もう、とむくれる。豊高は可愛らしさを感じ頬を緩めた。石蕗は目を細めながら2人の様子を見ていた。そしてそっと呟く。
「なんか、お前らの方が」
吉野と豊高は同時にえっ、と石蕗の方を見る。
きょとんとしたあどけない表情に石蕗は吹き出し、
「何でもねえよ」
とポテトをつまんだ。
ファミレスを出ると、すかさず冷たい風が顔を撫でる。料理と暖房で熱を孕んだ身体には心地よかった。
「で、どこ行くんスか」
「ゲーセン」
豊高は吉野をちらりと見た。吉野の物静かな雰囲気とは不釣り合いな場所に思えた。
「大丈夫。よく行くから」
吉野は淡々と答えながら、目を爛々とさせていた。
豊高はたじろく。
「意外と負けず嫌いだぞー」
石蕗は愉快そうに言った。
石蕗の言った通り、吉野はアイスホッケーやシューティングゲームでやりこんだ手捌きを見せた。澄ました表情をしながら、手指は猛烈な勢いで高いスコアを弾き出していく。石蕗が勝てば睨みつけ、自分が勝てばどこかスッキリした表情を見せた。豊高はゲームセンターに出入りした経験はほとんど無く、結果は惨敗に終わった。
UFOキャッチャーをじっと見つめる吉野に、「やらないんですか」と尋ねるが、「取れるまでやっちゃうから」と悔しそうな表情が返ってきた。
豊高は何気無く、だらけたクマのぬいぐるみを取るべくコインを投入する。すると、たまたまタグにアームが引っかかり、ぽとりと取り出し口に落ちてきた。
吉野は目をキラキラさせ、すごい!すごい!と豊高を褒めちぎった。
いや、たまたまで・・・と、豊高はたじろきオロオロしている。
石蕗は微笑ましそうに眺めていた。
吉野を送り届けた後、石蕗は驚くことを言い放った。
「お前ん家、行っていい?」
豊高は、数度瞬きをしてもう一度その言葉を頭の中で再生する。
「え?」
石蕗の言っていることがようやく届いた。
「金無いしさあ、どんな家か気になるし」
「いい、ですけど・・・・・親、いるかも」
「気にしないって。まあ来て欲しく無いってならいいけど」
豊高は慌てて
「いいです」
と答えた。親に見つかり気まずくなることより、石蕗と一緒にいたいという気持ちが勝った。
「じゃヨロシク」
石蕗が自分の部屋に来るというイメージがまったく湧かず、あれこれ想像していたため道中石蕗と会話したが内容はまったく覚えていなかった。
マンションに着くと、石蕗はマジで?と驚いた顔をした。豊高はなんとなく気恥ずかしくなり、ええまあ、と濁した。
エレベーターを降りた後もへぇーと周りを見渡しながら感嘆する。豊高は緊張しながらドアに手をかける。
開いていた。
誰がいるのか探るように、ただいま、と呟いた。
「おかえりぃ」と独特の間延びした声が返って来た。母親がいるようだ。ホッとして上がるよう促す。
おじゃましまーす、と言いながら石蕗は靴を脱ぐ。
台所から母親が顔を出し、あら、と驚いた表情を作った。豊高は部活の先輩だと簡単に紹介し、石蕗も愛想良く挨拶した。どこか不安そうに石蕗を眺め始めた母親から逃れるように、自室に石蕗を押し込む。
「ホントにお前の部屋!?」
部屋に入り開口一番、石蕗はそう言った。
「はい・・・・・」
「めちゃきれいじゃん!」
「片付いてないと嫌なんで」
はーっ、と感嘆したように息を漏らす。そしてベッドに腰掛ける。ぎしりと鳴る音にドキリとした。
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