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第1話 ⑧
「長かった~」
ほっとして息をはく。その幽霊がふっと圭介の体から離れた。寝転がる圭介の隣に普通の人間がするようにあぐらをかいて座り込んだ。圭介を見て再び質問してくる。
「で。不感症なの?」
「え?? いや、違うけど」
「全然感じてなかったじゃん。アンともウンとも言わねえし」
「いや、だって。声出ないし。それに、俺、男だけど?」
「男でもアンとかウンとか言うだろ。感じれば」
「……でも、男に触られて感じる方がおかしいだろ?」
「お前、男好きじゃねぇの?」
「は? ……好きじゃないけど……」
「見た感じ好きそうだったけど」
「……いや、違うから」
こいつは一体何を言っているのだろう。大体、幽霊のくせに。なんでこんな普通に座って、普通に自分と話しているのだろう。そんな、自分が不感症なのか男好きかなんていうことよりもっと色々はっきりさせたいことは山ほどあるのに。
「ちょっと、聞いていい?」
「何を?」
「あんた、ここに憑いてる人?」
「そうだけど」
「なんで、そんなしっかりしてんの?」
「しっかり?」
「だって、幽霊だろ? こんな存在感ある奴、初めてなんだけど」
「ああ……それは俺の実力的な?」
「は? 実力?」
「なんて言うか、まあ、霊力って言ったらいいの? それが強いから」
「……地縛霊のくせに?」
その言い方に、その幽霊は明らかに不機嫌そうに眉を潜めた。
「地縛霊、馬鹿にしてんの?」
「いや、そういうわけじゃないけど……。大抵もっと弱っちいって言うか……」
「弱っちいのは浮遊霊の奴らだろーが。地縛霊はそれなりに目的持って場所に憑いてる奴が多いから恨み深いし結構力あるよ」
「あんたはなんでここに憑いてんの?」
「……それ愚問じゃない? ここで死んだからじゃん」
「じゃあ、殺人事件で殺された人?」
「そう」
「どうやって殺されたの?」
「女に刺された」
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