10 / 132

第1話 ⑨

 よくよく話を聞いてみると、どうやら6年ほど前に、ここに大学生として住んでいたこの幽霊男はある同期の女の子と関係を持ったらしいのだが、本人的には付き合っているわけではなく、ただのセフレだと思っていたらしい。  しかし、女の子は本気だった上に、かなり陰湿な性格だったようだ。ストーカーと化すのに時間はかからなかった。  もともとそんなに誠意ある性格でもなかった(それは圭介も態度から納得できた)幽霊男はかなり冷たくあしらったらしい。  男も女もいけた幽霊男は、ストーカー女をかわしつつ、男女の不特定多数のみなさんとセフレ生活を続けていたらしいのだが。  ある日、酔って女とアパートに帰ってくると、家の中に正座して待っているストーカー女がいたらしい。包丁を持って。  そこからは、まあ想像通りの展開で、ニュースとかでよく聞く、『口論の末、逆上した相手に刃物でめった刺し』されたそうだ。ちなみに一緒に帰ったセフレ女友達も巻き込まれたという。 「めった刺しの割には綺麗じゃない? 体」 「その時の格好で現れることもできるけど、メリットないから」 「そんな、自分の都合で姿変えられるもんなの? それも初めて聞いたんだけど」 「だから。力ある奴だったらできるって。物だって動かせるし」 「あんた、なんでそんな力あるわけ?」 「いや、まあ……ちょこちょこ生きた人間からエネルギー貰ってるから……」  急に幽霊男の回答が歯切れ悪くなった。圭介は訝しげに幽霊男を見て、まさか、と問いただす。 「もしかして……エネルギー貰うって……」 「……お前に隠してもしょーがねーから言うけど。これからお世話になると思うし。つまりはセックスするわけ」 「……マジで?」 「マジで」 「……それ、みんなそうなの? 幽霊はその……セックスしてエネルギー貰うってこと?」 「それぞれ方法は違うけど。俺はセックスだから」 「……俺としたいわけ?」 「お前は俺に選ばれた」 「なにそれ」 「誰でもいいわけじゃないから。お前はなかなか俺の好みだし」 「は?」 「いくらエネルギー欲しいからって、誰とでもできるわけじゃねぇし。不細工な野郎とか女とかじゃ俺も勃たないじゃん?」 「はあ……」 「ここ最近、この部屋に来る奴はほんと不細工な男ばっかりだったから、腹立ったわ。ほんと。腹立ち過ぎで、かなり脅して追い出してやったけど」  なるほど。だから前の住人も着の身着のまま出ていったのか。とぼんやりと考えて、肝心なことを聞き流していたことに気づく。

ともだちにシェアしよう!