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エピローグ ⑤

「あちゃー。もう来ちゃった」  ママがしまったという顔をしてペチリと頭を叩いた。前を見ると、お家の前に誰かが立っているのが見えた。女の人と男の人。あと、小さい子。 「ごめんねー! ちょっと、バタバタしてたの」  ママが僕の手を引っ張って急いで家の前まで走った。 「いいのいいの。なんか、私たちも久しぶりだから楽しみで早く来ちゃった」 「隣なんだから、ギリギリまで待てばいいじゃんって言ってたんだけどさ」 「あはは、由美は昔からせっかちだからねぇ」  ママと、女の人と男の人でなんだか楽しそうに話しているけど。僕は、もう1人の小さな子に視線が釘付けになった。  男の子だった。僕と同じぐらい。男の人と手をつないで静かに立っていた。その子もじっと伺うように僕を見ていた。  女の人が、僕に気づいて笑顔を向けてきた。 「圭介くん、大きくなったねぇ。赤ちゃんの時以来だから」 「圭介、こんにちはした?」 「……こんにちは」 「こんにちは。圭介くん、この子、樹。私たちの息子なの。圭介くんと同じ歳」 「たつき……?」 「そう。樹、お隣の圭介くんだよ」 「…………」  じっと、『たつき』が僕を見つめ続けた。目の横に小さな黒い点。  あ。あのお兄ちゃん。  『たつき』が小さく笑った。僕も自然と笑顔になる。 「さあ、入って。急いで夕飯の支度するから。すき焼きにしようと思って」  ママがそう促してみんなで僕の家へと入った。 「圭介。ご飯できるまで樹くんと遊んでてね」 「うん」  僕は『たつき』に手を伸ばした。 「僕のお部屋にいこ」 「……うん」  『たつき』が僕の手を握った。その手を引っ張って階段を上がっていく。 「けいすけ」 「何?」  階段の途中で名前を呼ばれて振り帰った。『たつき』がじっと僕を見てる。  あ。その顔。  ほくろのお兄ちゃんと同じ顔。やっぱり。『たつき』はあのお兄ちゃんなんだ。お姉ちゃんが言った通り、小さくなって僕に会いにきてくれたんだ。  『たつき』が僕を見つめながら呟いた。 「……本当に会えた」 「え?」  どういう意味だろう?そう思ったけど、別にいっか、と思った。だって。僕も同じこと思ったもん。お兄ちゃんと、『たつき』と会えたんだもん。 「たつき、隣に住んでるんでしょ?」 「え? うん」 「そっか、じゃあ、ずーっと一緒だね」  僕がそう言うと、『たつき』が嬉しそうに笑った。 「そうだね」  なんだかすっごく嬉しくなった。急いで『たつき』がいるところまで階段を降りると、『たつき』にぎゅっと抱き付いた。  ちょっと経って、『たつき』の小さな両手が僕をぎゅっと抱き返した。 【完】

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