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プロローグ

「ねぇ、七瀬くん。サッカー部の顧問、また変わるらしいよ」 夕日が入り込む教室の窓辺。 空いている窓から涼しげな風と共にグラウンドにいる生徒達の掛け声が聞こえてきた。 「そんなことよりさっさと写せよ。お前が終わらないと俺が帰れない」 俺の目の前には楽しそうにペンを回している依織がいた。 窓から流れてきたそよ風で、少し跳ねている依織の前髪が揺れる。 サボり癖のあるこいつに課題をやる気などないことは分かっていたから、こうして今俺の課題を写させているのだ。 「でもさりげなく僕を待っててくれるから、やっぱり七瀬くんは優しいなって思う」 「なら、日頃の俺の行いに感謝しろ。ジュースぐらい奢れ」 「えーやだー。お金ない。見返りを求める男ってモテないよー。もっといろんな人に慈悲の心を持たなきゃ」 本当にデリカシーのないやつ。 ちょっと顔が整ってるからって調子に乗るな、アホ。 イラつきを抑える俺に気づかず、なにかいいことを思いついたと言わんばかりの笑みを浮かべ、依織が俺の手を掴んだ。 「·····あ、そうだ! 代わりに、モテない七瀬くんにいい提案をしましょう! 」 「はいはい。どうでもいいからさっさと終わらせろ」 「七瀬くん。僕と付き合って」 は? 思わず俺は、依織の顔を凝視した。 「な、なんで俺がお前と‥‥」 動揺して、言葉が途切れる。 少し考えるような素振りを見せると、依織は 「だって僕、七瀬くんのこと嫌いじゃないから」 と言葉を続けた。 5月の中旬。数日前中間考査が終わった頃……。 夕暮れの教室にて、俺は依織から告白された。 そんな単純なきっかけで、その日から俺達は、曖昧な恋人生活を始めた。

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