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第1話 出会い

昔むかし、あるところに大きな港町がありました。 一年中温暖な気候で、港には毎日豪華な客船や荷物をぎっしり詰めた貿易船が出入りします。 世界中の人々や珍しい食べ物、光り輝く宝石も全てこの町に集まってきます。 華やかな娯楽施設も贅沢な宿泊施設や高級な酒場もたくさんあり、夜でも昼のように賑わっている町でした。 キールはこの町で用心棒として働いていました。 背が高く、日焼けした筋肉質な体は健康そのもの。 黒い髪を短く切り揃えた清潔感のある爽やかな青年です。 用心棒と言っても、ケンカがあれば止めに行き、困ったお年寄りがいれば助けに行き…と、主な仕事は人助けと町の警備です。 親切で頼りがいのあるキールは町の人気者でした。 ある日の事。 いつものように町の見回りをしていたキールは、複数の男に路地裏へ連れ込まれる娘を見かけました。 男たちは貧しい娘をお金持ちのお屋敷に送り込んで、いかがわしい事をさせている悪い奴らです。 でも、生活のために自らその道を選び、家族を養っている娘もいるので、男たちを完全に排除する事はできません。 裕福な暮らしをする者がいる反面、そんな生活を余儀なくされる者もいるのです。 もし、娘が嫌がっているなら助けなくてはなりません。 キールはこっそり後をつけ、物陰から様子を伺いました。 娘は助けを呼ぶ声が聞こえないよう、口を塞がれ、体中を撫で回されています。 このままでは娘が輪姦されてしまいます。 「おい、そこで何やってるんだ!!」 キールが姿を見せると、男たちは舌打ちをしながら娘を解放してどこかへ去っていきました。 「おい、大丈夫か?」 その場へ崩れるように座り込み、震えながらうなずく半裸の娘を気づかうように優しく声をかけました。 羽織っていた外套を拾って肩からかけてやろうとした時です。 「お、男!?」 その娘の胸はぺたんこだったのです。 よく見たら服装も男物です。 「はい…」 彼は涙を浮かべながら小さな声で返事をしました。 怖い思いをしたせいで少しかすれていましたが、優しい声でした。 色白で華奢で可愛らしい容姿。 ひとまとめにしたアーモンド色の柔らかそうな長い髪は少し乱れていました。 外見はどこからどう見ても娘にしか見えません。 姿は儚げですが、ふとした仕草や体つきはどこか妖艶で不思議な色気を醸し出し、襲ってくれと言わんばかりです。 いくら大人の男であっても、こんな状態でこの町を1人で歩くなんて危険すぎます。 「お前…どこから来たんだよ」 助けた男はセラと名乗り、隣の国の小さな村出身だと言いました。 身なりはきちんとしていましたが、手荷物が極端に少ないのです。 もしかしたら、誰かに奪われてしまったのかも知れません。 「今からどこ行くんだよ。送ってってやるよ」 「いいえ…。実は…家を追い出されてしまったんです」 どうやら訳ありのようです。 詳しく聞いてみると、セラは村長の息子で、何不自由なく暮らしていたけれど、父親が再婚してから家に上手く馴染めなくなり、留学と言う名目で家を出されたと言いました。 歳はキールより3つも上でした。 船で町にやって来たのは今日の昼間。 すぐに全財産の入った財布や、手荷物の入った鞄を奪われ、途方に暮れていた時に、さっきの男たちに襲われかけたと、涙ながらに語りました。 キールはため息をつきました。 このまま放っておいたら、目の前の世間知らずのお坊ちゃまはあっという間に捕まって人身売買されてしまうに違いありません。 キールは、仕方なくセラを自分の住んでいる小さな部屋へ連れて帰りました。 古くて小さな宿の一室を借りて住んでいるので、生活にも家の広さにも余裕はありませんでしたが、セラを見捨てる事もできません。 セラは、キールが用意した堅くなってしまった小さなパンと、ほとんど具のない薄味のスープを珍しがって食べ、こんなに狭くて堅い寝台は初めてと言いながら、あっという間に眠ってしまいました。 長い船旅や、昼間の出来事で疲れてしまったのでしょう。 キールはこれから先の事をどうするか考えました。 貧乏暮らしなので、いつまでもセラを養う事はできません。 この町でセラが生きていくために、住む場所や仕事を探してやらなければいけません。 でも、セラの子供のように無防備な寝顔を見ていたら、不思議とどうにかなる気がしました。 寝具は一人分しかないので、今夜は一緒に眠るしかありません。 キールは、寝台の真ん中で眠っているセラを壁際に押して自分のスペースを作ると、セラを起こさないよう、ゆっくり体を横たえました。 セラを休ませるため、なるべく離れて眠ろうと思っても、狭い寝台なので、どうしても体が触れ合ってしまいます。 キールの温もりを感じたセラが、甘えるように体を寄せてきました。 きっと誰か大切な人と間違えているのでしょう。 教会で見た彫刻のように美しいセラが、自分に寄り添って眠っているのを見たキールは胸の鼓動が速くなりました。 キールはどうしてもセラを意識してしまいます。 困った事に、一度意識し始めると寝息や温もりが気になって気になって眠れません。 「こんな状況で眠れる訳ないだろ…。どうしろって言うんだよ///」 こうして、2人の不思議な同居生活が始まりました…。

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