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第2話 生い立ち
次の日の朝の事。
キールは下半身の違和感を感じて目を覚ましました。
眠い目をこすりながら体を起こして見ると、セラが自分の脚の間におさまり、性器を口いっぱいに頬張って口淫をしていたのです。
「おい!何やってんだ」
慌てて身を引くと、セラは悲しそうな顔をしてキールに抱きつきました。
今度は口づけをしようと唇を寄せてくるのです。
「おい、待てって!」
「やだ、して…。俺の事抱いてよ…!」
必死に自分を求めてくるセラに、何か理由があると感じたキールは、動きを封じるようにセラをぎゅっと抱きしめました。
「ねぇ、舐めたい。体の奥に硬いのが欲しいの」
昨日眠っていたセラは、天使のように清らかだったのに、今朝は娼婦のように淫らに迫ってくるのです。
そのギャップにキールは驚きを隠せません。
とにかくセラを落ち着かせようと、優しく頭や背中を撫で続けてやりました。
しばらくして落ち着きを取り戻したセラは、申し訳なさそうに何度も何度も謝りながら、両手で顔を覆いシクシクと泣き続けました。
今度は悪戯がバレて泣きじゃくる子供のようです。
キールはセラがどうしてこんな事をしたのか理由を知りたいと思いましたが、どこまで踏み込んでいいかわかりません。
セラから話し始めるまで何も聞かない事に決めたキールは、ただただセラの華奢な体を抱きしめ続けました。
「迷惑をかけて本当にごめんなさい…。どうしてこんな事をしたのか…聞いてもらえますか」
「あぁ、でも無理しなくていい。話せる事だけでいいからな」
セラは安心したように微笑むと、キールに体を預けたまま、小さな声で生い立ちを話し始めました。
セラは幼い頃に流行病で母親を亡くしました。
父親は母親の分もセラを大切にし、セラはその愛情を一身に受けて育ちました。
父親のような村長になろうと、一生懸命勉強して、自慢の息子でいられるよう努力をしてきました。
数ヶ月前のある日の事。
父親が自分と同じ歳くらいの若くて美しい女性を連れてきて、再婚する事を告げられました。
親戚や屋敷で働く者は財産目当てだと、口々にその女性を悪く言いました。
セラは、淋しくはありましたが、父親が選んだ人なら間違いはないし、父親が幸せになれるのならそれでいいと思いました。
でも、父親は若くて美しい後妻に夢中になってしまいました。
前のようにセラだけを愛してはくれません。
毎晩のように夫婦の寝室からは、甘い声と物音が聞こえてきます。
辛くなったセラは、村の酒場で夜遊びをするようになりました。
その時に遊び仲間から教わった性行為に溺れたセラは、毎晩のように男と交わって淋しさを紛らわせるようになりました。
そんなセラの様子はすぐに村中の噂になり、父親の耳にも入ったのです。
セラを自室へ呼んだ父親は、しばらく村を出るようにと一方的に告げ、留学という名目でセラを村から出したのです。
セラは、邪魔者の自分は父親に捨てられたと感じ、心に深い傷を負っていたのでした。
その淋しさや、辛さを忘れたくてキールに抱かれようとしたのです。
キールは、時折涙を見せながら生い立ち話をするセラの声に耳を傾け続けました。
キールは戦災孤児なので、家族はいません。
幼い頃からずっと一人で生きてきました。
家族の温もりに憧れていましたが、目の前のセラは家族がいるのにとても淋しそうです。
家族がいれば幸せだと思っていたキールにとって、驚きの出来事でした。
キールは、ますますセラを追い出す事ができなくなりました。
今のセラには頼れる人がいないのです。
ひとりぼっちの辛さを知っているキールは、セラの生活基盤が整うまでこのまま一緒に暮らす事を決めました。
セラの父親の真意はわかりませんでしたが、傷ついたセラの心を癒してやりたいと思ったのです。
キールは早速行動にうつしました。
間借りしている宿屋の女将にも事情を話し、自分が働きに出ている時はセラを見守って欲しい事を伝えました。
事情を知った女将はセラを雇い、仕事をさせながら様子を見る事にしました。
それからあっという間に2か月がたちました。
年老いた女将はいい働き手がきたと喜び、何も知らないセラに料理や掃除の仕方を丁寧に教えました。
セラは賢く、努力家だったので、一度教えただけですぐに何でもできるようになりました。
でも、時々性衝動を抑えきれないセラは、宿泊客の男性に色目を使ってしまいます。
女将はそれを見かけると、用事を言いつけてセラを裏へ呼び、落ち着くまで優しく抱きしめ続けました。
母親の温もりに飢えていたセラは、女将を本当の母親のように慕い、淋しくなると子供のように甘えるようになりました。
女将はどんなに忙しくても、仕事の手を止め、セラを包み込むように抱きしめ、セラの心に寄り添い続けました。
キールは仕事を終えて部屋へ帰ると、どんなに疲れていてもセラの話に耳を傾けるようにしました。
セラは毎日、できるようになった事を嬉しそうに話すのです。
セラの笑顔が見たくて、果実や野の花をお土産に持って帰るようになりました。
セラが部屋を抜け出して、衝動的に誰かに身を任せてしまわないよう、夜は手を繋いで一緒に眠ります。
誰かと体を繋げるのが当たり前の生活を送っていたセラは欲求不満です。
あの手この手を使ってキールを誘惑しますが、キールは断固としてそれには応えませんでした。
欲情してしまった時は1人にしてやって、自分だけで性欲をコントロールできるように気づかってやりました。
泣き落としや夜這いをかけてきた時は、シーツでセラの手と体全部を覆って一晩中抱きしめ続けました。
休みの日は、セラを連れて海を見に行ったり、買い物をしたりして性行為以外の癒しや楽しみを見つける手助けをしました。
そんな毎日を送るうちに、セラの言動は少しずつ落ち着いてきました。
キールは屈託なく笑い、ひたむきに生きるセラを愛してしまいました。
次第に、セラにも自分を見て欲しい、セラを抱いて自分だけのものにしたいと思うようになりました。
何度もセラの色仕掛けに応じてしまいそうになりました。
でも、セラは今、必死に自分の心や欲望と闘っているのです。
今、自分が手を出したら、手軽に性欲処理できる相手を見つけたセラは自分との性行為に溺れてしまうでしょう。
それでは今までのセラの努力が無駄になってしまいます。
『セラが父親と和解して、本当の笑顔を取り戻したら想いを告げよう』と心に決めたキールは、必死に耐えてセラを支え、励まし続けました。
一方、セラも明るくて優しいキールに特別な気持ちを抱いていました。
キールと一緒にいるだけで、心が温かくなって幸せな気持ちになれるのです。
少しでもキールの役に立ちたくて、縫い物や料理も学びました。
キールの特別になりたい。
キールに抱いて欲しい。
心ではそう願っていましたが、言葉にはできませんでした。
愛しているキールにだから抱かれたいのか、淋しさを紛らわせるためだけに抱かれたいのか、ただの性欲処理なのか…まだ上手く判別がつかなかったのです。
その証拠に、キールが仕事に出ていたり、女将が買い物に行ったりして1人になると、無性に体が疼いて誰でもいいから抱いて欲しいと思ってしまうのです。
そんな夜は、頭ではいけない事だとわかっていても、体は衝動的に身近にいるキールを求めてしまうのです。
そんな状態で想いを告げてもキールに迷惑をかけるだけ。
こんな自分はキールにふさわしくない、愛してもらえる訳がないと思ったセラは、あふれる想いを胸の奥にしまい込んでしまったのでした…。
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