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辺りは火に包まれていた。煙が充満し、城全体が崩れ落ちてもおかしくないほどの火事だ。
「王子……」
後ろから声が掛かり振り向く。血に濡れた見覚えのある男が火の中からやってきた。久しぶりに見る男に驚愕するが、ため息をつき心を落ち着かせながら言う。
「……もうこの国は終わりだ。お前も何でこんな所にいる。田舎へ帰れと言ったはず」
煙が襲ってくる。目が染み、目頭を押さえながら言った。血塗れの男は数ヶ月前に暇を言い渡した護衛の男だった。ここにいるはずのない、いてはいけない男だった。
「強がりはやめて早く逃げるぞ!火がもうそこまで来てる!!」
久々に聞く男の声と、子供の頃以来のタメ口。戦争も、家のいざこざも、なにもなくただ毎日が楽しかった頃の事を思い出してしまう。
「ダメだ。もう俺はこの国の長なんだ。この戦争の為に散っていった者を裏切ることなんてできない。あと俺ももう長くないんだよ」
涙が溢れてくるのは煙のせいなのか、自分の不甲斐なさからなのか、脇腹に負った傷のせいなのか。
「生きるんだよ!!お前が居なくなるなんて耐えれない!俺はお前と」
「黙れ!それ以上話すな!!
……もう遅いんだ。全部、全部!守れなかった俺が悪いんだ」
先に続く言葉を遮り、叫ぶ。
そうもう遅い。全部後の祭りだ。
最後にしてやれること、それがこの男を生かすことだけだったのに、なぜこんな火の中に。
ぐるぐると頭の中で後悔が回る。煙を吸いすぎたのか目眩をひきおこし、膝をついてしまった。
「王子、好きです。ずっと貴方しか見えてなかった。もう強がらなくていい。逃げてやり直しましょう」
「ダメだ、俺は王なんだ……。お互い決められた相手もいる身だろ……」
涙がこぼれた。いろいろな物が器から溢れ出したみたいだ。熱い、苦しい、好きだ、好きなのに、両思いだったのに、なぜ。
目の前が霞んできた。頭もクラクラとし、目の焦点が合わなくなり、そのまま前に倒れ込んでしまった。
「王子!!!」
男が体を抱き上げてくれる。目を開けると、見たことのない男の泣き顔がそこにはあった。
「なら、生まれ変わったら……共に生きると、共に生き、共に老いていくと約束してください」
男が手の甲に口付けてきた。そして右の薬指を口に含み、力一杯噛んだ。痛みに眉をしかめてしまうが、その瞬間に意識を手放してしまった。
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