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 ゆらゆらと規則的なテンポで体が揺れる。 「……陛下……よかった……」  薄く目を開けると、優しげな笑顔があった。よく知る城の傭兵の男が俺を横抱きにしてまだ火が残っている城を歩いていた。 「どうして……」  煙の吸いすぎで、声がうまくでなかった。  脇腹の痛みももう感じない。 「もう兵は撤退させました。陛下の言う通り犠牲を少なくする為に」 「もう戦は終わりなのか……」  悲しそうな顔を浮かべて、男ははい、と続けた。  戦争の終わりは、その国の長の死を意味している。この国の長は俺自身だ。 「最後まで迷惑かけて悪い」  最後の強がりで笑って見せた。  火の残り方で気を失っていたのは数十分か、と推測する。あの男は、血塗れの、最愛の男は。  最後の記憶にある男が噛んだ右手の薬指を見ると、薬指の付け根に噛み跡があった。力一杯噛まれたのか歯形が残っており、指の付け根が赤くになっていた。 「いいんです。……陛下の最後を共にできることを光栄に思います」  命を捨てることになることはわかっていた。ただ可能な限り思い出のある部屋で最期を迎えたい、とこの男にだけ相談していた。  その場所は地下にある、亡き両親が眠っている教会を模した部屋だった。 「ここでいい」  地下に続く階段の上で男に声をかけた。仲がいいと言っても最期にもがき苦しみ死ぬ事を後悔している姿なんて見せたくなかった。 「お前には本当に感謝している。もう逃げてくれ」 男の胸をおすと、地面に足を下ろされた。 多少フラフラするものの、階段を降りるくらいはできるだろう。  男の腰に下げていた剣を抜き取り、背中を向けて歩き出した。  階段を一段、一段壁に手をつきながら降りていく。  1人になるとこれまでの事が走馬灯のように頭の中を過ぎる。  きっと助けに来てくれた血塗れの男は、もう生きてはいない……。倒れる寸前に見た男の足元の血の量をみると、服を濡らしていた血は彼自身のものだったのだろう。好きだった人もいなくなり、大切だった国まで失い、もう残された物はなにもない……。 「陛下!私も最期まで……。共にいきます。」  壁に付いていた腕を支えて男は言った。  眉は下がりに下がり、涙がぽろぽろと溢れていた。いつもそうだった。こちらが泣く前に、目の前の男はすぐに涙を流していた。こけて膝をすりむいた時、前の王が亡くなった時、俺よりも先にぽろぽろと涙を流していたのはこの男だった。 「足元、お気をつけて」  教会の扉が開かれる。ギィィ、と心地の良い音とは言えない音が響いた。赤い絨毯を歩き、中央に大きく吊ってある十字架の元に行く。 「陛下……」  男は小さな小瓶を取り出した。透明な液体が入った、ガラスの小瓶だ。  中身は何か書かなくても分かる。毒だろう。 「見縊るな」  持っていた剣を鞘から抜き、自身の腹部に突き刺した。じわじわと血が滲んで行くのが分かる。途切れ途切れに息を吐き出す。脇腹の傷を負った時とは比べ物にならないほどの痛みが襲う。 「何で……」 男はそう言い、倒れそうになった身体を支えてくれる。  兵が戦って死んだ中、王である自分が服毒で死ぬなど許されることではない。 「……もう終わりだ」  そう一言呟くと、口から血が溢れ出てくる。もう息をするのもしんどかった。 「陛下……お慕い申しております……」  最期に見た光景は、男が短刀を自身の首に添えているところだった。

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