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「バカみたいだ。こんな……情けない」 「逆だよ、馬鹿なのは俺。だから……こんな方法しか浮かばない」  触れるだけのバードキスを繰り返しながら囁くと、突然歩樹に頭を掴まれ、噛みつくように口を塞がれる。 「っ……んぅっ」  舌を絡め、徐々に角度を変えながら……甘噛みしたり吸いついたりする巧みなキスに翻弄され、たまらなくなった楓は微かに喉を鳴らして吐息を漏らした。 「やっぱり……やられっぱなしは性に合わない」  ようやく唇が離れた時、はにかむような笑みを浮かべ、告げてくる歩樹の表情から……陰りが消えたように見えるのは、都合のよい勘違いだろうか? 「楓が見合いを薦められるくらいなら、俺が結婚すればいいと思った。お前の為じゃなくて、俺が嫌だったんだ。それじゃああの人と同じだって分かってた。けど……お前が結婚するくらいなら、それでもいいって思うくらい……俺は、お前を愛してるんだと思う」  吹っ切れたようにこちらを見つめ、明瞭に紡がれる言葉。  本人にその自覚が無いが、子供の頃から自分や佑樹ばかりを優先し、自身を犠牲にしていた事はずっと見ていて知っている。  だが、今回は完全に意味が違っていた。自己犠牲などではなく、歩樹への深い独占欲がもたらした行動だったのだ。 ――それだけで、イケそうだ。 「愛してるって初めて言われた」 「そうだな。ちゃんと言った記憶が無い」  照れたように色付く頬が(いと)おしくてたまらない。  そんな言葉を口に出せば、完全に否定されるだろうが――。 「体、綺麗に洗ってから続きしよう。まだ達ってないから疼くだろ?」 「ちょっ、楓、何する……」 「抱き潰すって言ったろ。まだまだだから覚悟して」  告げながら立ち上がり、歩樹の体を姫抱きにすると、多少抵抗はするけれど……「愛してる」と囁きかければ、動きを止めて大人しくなる。 「お前、いつも……俺が何でも知ってるような顔してるって言ってたけど、今じゃ逆だ。全部見透かされてる」 「悔しい?」 「いや、実のところそうでもないって……今日気づいた」  片方の口端を上げ、伏し目がちにこちらを見上げる歩樹の瞳は艶を帯び、楓にとっては誘っているようにしかもう見えなかった。 「あんま、煽るなよ」 「相談……しなくて悪かった」  覆い被さろうとした刹那、消え入るような小さな声が、バスルームの反響を借りて楓の耳へと入ってくる。  きっと、長男としての矜持の前では精一杯であろう謝罪。だけど、今の楓にとっては歩樹のそんな意地さえかえって愛しい。 「んっ……」  答えの代わりにキスを仕掛ければ、待っていたように応じる歩樹に抑えが効くはずもなく――。 「ごめん、優しく出来ないかも」  長く深いキスの後、内緒話のように告げると、「いつもだろ」と答えた歩樹がシャワーのコックを片手で捻り、もう片方の腕を楓の背中へと回してくる。 「俺はそんなにヤワじゃない」  飛沫の音に紛れた声と、悪戯っぽく微笑む唇。  きっと強がっているのだろうが、敢えて気付かない振りをする。 「じゃあ、遠慮なく」  紡ぐ言葉とは裏腹に、出来るだけ優しく歩樹の体をタイルの上へと横たえると……その足首をそっと持ち上げ、自分の想いを伝えるように、爪先へと、恭しく、触れるだけのキスをした。 end ありがとうございましたm(__)m

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