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第9話
コンビニに着くと鷹野はすかさずカゴを持ち、先ずはドリンクコーナーへ向かう。適当に2リットルあるペットボトルの麦茶を2本取れば、次いで弁当などが並ぶコーナーへと足立の背に手を当て誘導していく。それに逆らわず足立も歩いていくとその前に立ち止まり鷹野を振り返った。
「俺、お菓子だけでいい」
「握りとか弁当とか要らねぇの」
「要らない」
ふるふると首を左右に振る足立に浅い溜息を吐き出す。自分が食べる分の弁当を三つ選ぶとカゴへ入れながら言葉を紡いだ。
「ちゃんと飯食えよ。菓子だけで腹は満たされねぇし、健康にも良くねぇ」
「えっ、それ全部食べるの?」
「あぁ、じゃなきゃ買わねぇ」
瞠目する足立にさらりと言葉を送ればついでにという風におにぎりを適当に入れていく。呆気に取られた様子で鷹野を見つめる足立は再び棚に向き直り二つだけおにぎりを取った。その横で一番上の棚から味噌汁のカップを二つ取りカゴに放り込むと、手に取られた二つのおにぎりも奪いカゴへと入れる。
「ついでにコレも飲んどけ。あとそれ、奢ってやる」
「え、いいよ!悪いから」
言葉を聞かずにレジへと向かうとずっと財布を構えている足立を尻目に弁当を温めてもらいつつさっさとカードで会計を済ませてしまった。店員が差し出してくる半ば乱雑に商品が入った袋を両手に持ってコンビニを出ると、小走りで鷹野の前に立ちはだかり財布を開ける。
「いくら?ちゃんと返す」
「大人には奢られとけって」
その言葉に少しだけむっとした表情を浮かべ、反論してきた。
「俺、もう大人だよ。それにそういうの、気になっちゃうからダメ」
「なら、今度酒飲みに付き合えよ。宅飲みでいいから」
「……っ、分かった、よ。でも、今度はしないでね?」
言葉を詰まらせる足立は渋々了承し、次の約束を結ばせる。それには鷹野も頷くしか無かった。
正直に言ってしまえば鷹野はまだ引っ越したばかりで周りに知り合いも居ない為、一緒に飲める友人さえも居ない。職場の仲間は殆どが既婚者な為、今までも気軽に誘えないでいる。これを機会に飲み仲間が増えれば、鷹野は丁度いいとさえ思っていた。再びマンションに向かい歩を進ませれば、足立も並んで歩き出す。春先で少しだけ風が冷たい夜だった。
マンションに着けば鷹野の部屋へと上がる。
「えっと、お邪魔します」
「遠慮無く」
鍵を閉めれば靴を脱ぎ、玄関を抜けてリビングへと向かう。その後ろを足立がパタパタと着いてくるとリビングを見渡して驚いてみせた。
「わぁ、鷹野サンの部屋って物が少ないね」
足立の部屋とは違い、ソファとテーブルにテレビ台にテレビしか置いていない部屋なので、些か殺風景ではある。
「まぁ、必要最低限の物しか置いてねぇんでな」
鷹野はテーブルの上にコンビニ袋を置くと、キッチンへと向かい電気ケトルに水を入れて湯を沸かす。数分待てばカチリと音が鳴って湯が沸き、ケトルとグラスを取ってリビングへと戻って来た。それをテーブルに静かに置けば、ラグの上へ腰を落とし胡座をかく。
「適当に座れ。飯、食おうぜ」
その言葉を聞くと、ちょこんと鷹野の隣に胡座をかいた。鷹野は場所をもう少し譲ろうと端へ寄ってやる。
「あ、ありがと。ごめんなさい」
申し訳なさそうに鷹野に寄ると、コンビニ袋に手を伸ばして麦茶を取り出した。その蓋を開けて二つのグラスに注ぐ。鷹野はインスタントの味噌汁のパッケージも開ければ、かやくと味噌を入れて湯を注いだ。
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