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鬼畜会長と子羊ちゃん 7話
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パソコンを前に東雲は悩む。
「東雲どーした?」
事務所に顔を出した照哉が真後ろに立つ。
「あ、照哉さん……ここ分からなくって」
「どれ?あっ、これ?」
照哉は東雲をまるで後ろから抱き締める感じで画面を覗き込み、東雲が悩む部分をキーボードで打ち込み、マウスの上にある東雲の手を包み込んで、クリックする。
息がかかる程に近い。
キスした仲なのに照れる。
キス………したんだよね?照哉さんと。
今更ながらドキドキしてくる。
「東雲どーした?顔赤いけど、熱上がったか?」
照哉は心配そうに東雲のオデコに手をあてる。
「ひやっ」
触られてピクンと感じてしまった。
ひゃっ……って、東雲?
赤い顔で俯く東雲がたまらなく可愛い。
「東雲、顔上げろよ」
真っ赤な顔をして東雲は俯いたまま首を振る。
「上げないとチュウするぞ」
チュウ!
その言葉に東雲は身体中が溶けるんじゃないかってくらいに熱くなる。
「なんだよ、して欲しいのか?」
顔を上げない東雲をからかう照哉。
う~、恥ずかしい!
何照れてんだよ!
ふわりと髪にキスをした照哉。
「て、照哉さん」
つい、顔を上げた。
照哉はその隙に唇を奪う。
キス………しちゃってる?
すぐに唇が離れ、 「可愛いな東雲は」と頭を撫でられた。
「他、分からない所は?」
キスの余韻に浸る間もなく質問され、仕事の話になる。
そ、そうだよ仕事だ!仕事!
そしてようやく復帰1日目の勤務が終わった。
今日は少しマシな売上だったけど、毎日これじゃあ……。
東雲はため息をつく。
「ため息か東雲?」
寮への帰り道、何故かユウヤが居て話掛けてきた。
「うん、売上がね……復帰したからには売上あげないとさ」
「東雲んとこ場所悪いんだよな~」
とユウヤ。
「売上上がらないとやっぱマズいですよね?」
健太もずっとその事を気にしていた。
「ミーティングしましょ?みんなでアイデア出し合ったら良いですよ」
いつも不真面目な幸太がマシな事を言うから全員が思わず幸太を見つめた。
「ちょ、何見てんすか?」
皆に見つめられ、幸太は戸惑っているようだ。
「誰の影響かなあ?幸太がそんな真面目な事言うのは」
健太はニヤニヤして幸太とユウヤを交互に見る。
「なん、俺だって真面目な事くらい言うよ、健太のばーか!」
実の兄弟に恋愛絡みのからかいを受け、恥ずかしいのか幸太は足早に寮へ入って行った。
その姿をクスクス笑いながらユウヤは後ろをピタリとついて行く。
「さて、俺も先に部屋行きますね。東雲さんお疲れ様です」
健太はそう言うと東雲に頭を下げる。
「俺も先に…店長お疲れ様です」
シンジも東雲に頭を下げる。
「メケメケにご飯ばやってくるです」
何となく英雄氏も去っていく。
あれ?
何時もなら自分の部屋に上がり込んでくる連中なのに。
―――あっ、 そっか、俺が居なかった分、色んな負担が1人1人に掛かってしまって、疲れ溜まってるよね?
だよね。
ちょっと寂しいと思ってしまった東雲。
うるさい!と怒鳴って、楽しくしたかったんだけどな。
「東雲?入らねえーの?」
照哉の声に我に返った。
「あっ、入ります」
歩き出して、ふと思った。
あれ?照哉さんと2人?
照哉さん………と2人………。
キスを思い出して顔が熱くなる。
やばい、なんで俺、意識しちゃってんだよお。
キスとか………してくるかな?
また、キス………したいなあ。
後ろを歩く照哉の足音。
うっ、ドキドキしてきた。
ピタリと足音が止まり照哉の声。
振り向くと誰かと電話している照哉。
なんか舌打ちをして、 分かりました。と返事を返している。
誰だろう?
気になっていると照哉が東雲を見て、
「東雲、ちゃんと寝ろよ。俺は出掛けるから」
と言った。
えっ?
「照哉さんどこ行くんですか?」
「ちょっと仕事頼まれた。じゃーな」
照哉は東雲に手を振り来た道を引き返して行った。
えっ?うそ…………。
急に寂しくなった。
期待してドキドキした気持ちが一気に落ちて、変わりに切ない感情でいっぱいになる。
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