1 / 5
第1話
「株主の結婚式にうちからも誰か参列させたいんだけど、佐倉、行ってくれる?」
そんな柘植会長の一言から、すべては始まった。
「私なんかでよろしいのですか?」
「うん、是非お前に行って欲しい。個人的な意見だけどね」
「……はあ」
「式を挙げるのは、男性同士らしくてね」
ぎくりとして、返事に困るアヤ。柘植にカムアウトした覚えはない。この発言は、どういう意味なのか。次の言葉を待つ。
「何年お前のことを見てきたと思ってるんだい」
「……それは……」
「結婚しないだとか子を作る気はないだとかも、さんざん聞かされたしね。……旅行がてら行っておいで、大事な人と一緒に」
「……!」
まさか、そんな相手がいることまでお見通しとは。
もしアヤにまともな親がいたなら、親とはこんな感じなんだろうか。
アヤは目を白黒させながら、小さくはい、と答えるのが精一杯だった。
***
「えっなになに?旅行?どうしたん!天変地異でも起こらんやろな」
突然アヤから旅行の誘いを受け、嬉しすぎて照れ隠しにむちゃくちゃ言っているリョウ。
「仕事絡みの結婚式に出席するんだよ。ついでに一泊してきていいって言われてる。一緒に来るかなと思って」
「うん!行く行く!」
断るなんて選択肢、リョウにあるはずがない。二つ返事で快諾した後は、何時にどこ集合だとか何を持って行けばいいだとか、話題はすっかり旅支度一色になったが、男性同士の挙式だと言うことは、アヤは話さなかった。
ともだちにシェアしよう!