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第1話

「株主の結婚式にうちからも誰か参列させたいんだけど、佐倉、行ってくれる?」  そんな柘植会長の一言から、すべては始まった。 「私なんかでよろしいのですか?」 「うん、是非お前に行って欲しい。個人的な意見だけどね」 「……はあ」 「式を挙げるのは、男性同士らしくてね」  ぎくりとして、返事に困るアヤ。柘植にカムアウトした覚えはない。この発言は、どういう意味なのか。次の言葉を待つ。 「何年お前のことを見てきたと思ってるんだい」 「……それは……」 「結婚しないだとか子を作る気はないだとかも、さんざん聞かされたしね。……旅行がてら行っておいで、大事な人と一緒に」 「……!」  まさか、そんな相手がいることまでお見通しとは。  もしアヤにまともな親がいたなら、親とはこんな感じなんだろうか。  アヤは目を白黒させながら、小さくはい、と答えるのが精一杯だった。 *** 「えっなになに?旅行?どうしたん!天変地異でも起こらんやろな」  突然アヤから旅行の誘いを受け、嬉しすぎて照れ隠しにむちゃくちゃ言っているリョウ。 「仕事絡みの結婚式に出席するんだよ。ついでに一泊してきていいって言われてる。一緒に来るかなと思って」 「うん!行く行く!」  断るなんて選択肢、リョウにあるはずがない。二つ返事で快諾した後は、何時にどこ集合だとか何を持って行けばいいだとか、話題はすっかり旅支度一色になったが、男性同士の挙式だと言うことは、アヤは話さなかった。

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