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第2話
上品なクリーム色で、薔薇の型押しがされた招待状に示された場所は、大きなお屋敷と呼ぶにふさわしい洋館だった。
「ここ……結婚式場?」
「いや、自宅らしい」
「ほへぇ……」
タクシーから降りた二人はその場に立ちすくみ、目の前の建物を眺めた。
「なんか場違いなとこ来てしもたかな」
「金持ちなのは予想できただろ」
小声でそんなやりとりをしながら、ようやく歩を進めた。
「花嫁さんいくつぐらいの人なんやろ。綺麗なんやろなぁ。洋館やしやっぱりドレスかな?白無垢も好きなんやけどなぁ~」
すっかりはしゃぎだし、いつものようにおしゃべりになったリョウがまくし立てているが、アヤは何も答えず歩いた。
挙式自体は内々だけで行い、披露宴は敷地内の庭でガーデンパーティーという形をとるらしい。今頃館内では式が行われているはずで、その間に披露宴に出席する者たちが集まり、庭ではすっかり新郎新婦の登場を待つばかりとなっている。
しっかり正装に身を包んだ二人も、案内された席についた。
アヤは深い小豆色、リョウは濃紺と、スーツの色こそ違えど、深紅のポケットチーフをさりげなくおそろいにしてみた。もちろんリョウのトータルコーディネイトだ。
「綺麗な庭やなあ」
「うん。すごく手入れが行き届いてる」
周りを見回すと四季折々にそれぞれ咲き誇るように計算され尽くした草花、そして立派なグラスハウス。よほどの熱意と人員をつぎ込んでいるんだろうなと言うのが安易に想像できる庭。ここでパーティーを開きたいと思う気持ちもよくわかるというもの。
洋館正面の重厚な扉がゆっくりと開き、全員の視線が一斉にそこへ注目する。
出てきたのは、黒よりも黒いテールコートを着た、聡明で落ち着いた府に気を醸し出す新郎、と、彼に手を引かれている上品で美しい顔立ちの――
「えっ」
リョウが思わず一瞬声を上げてしまい、慌てて口を押さえる。
そう、手を引かれて歩いてくるのは、妖艶ですらある美貌に育ちの良さを兼ね備えた顔立ちによく似合う、光沢のある純白のフロックコートに身を包んだ、男性である。互いの胸元を彩るブートニアは、庭にも咲き乱れている深紅の薔薇。
「え、どういうこと?」
ひそひそと、隣のアヤに話しかける。
「どういうことって」
アヤは主役の二人から目を離さず、同じく小声で返したが、その後リョウからは何も返ってこなかった。
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