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第3話

 参列者には当然同業者が多く、名刺が飛び交う中、アヤはそんなことそっちのけで考え込んでいる。  白と黒のコントラストが眩しい新郎の二人を見つめる。いや、眩しいのはコントラストのせいだけではない。もちろん、門出を祝うように晴れ渡る陽射しのせいだけでもない。  晴れ晴れと、それでもやはり少し気恥ずかしそうにはにかむ純白の新郎、そして彼を目を細めて見つめながらも、すべての外敵からガードするように気遣う漆黒の騎士。こんな晴れの日を迎えた二人にも、ここへ来るまでにいろいろなことがあったのだろうことをうかがえるし、二人の関係性までも垣間見える。  そして同じようにそんな二人を見つめる、傍らの恋人はというと――  珍しく、読めない表情で、ただ今日の主役を見ている。普段なら表情で何を考えているのか一目瞭然なのに。  嬉しそうでいて、悲しそうでいて。  リョウ、今何を思う? 「リョウ」  アヤが声をかけると 「ん?」  答えるリョウはもうアヤに向けるいつもの表情。柔らかく口角が上がり、愛おしい者を映す、緩くきらめく瞳。顔中のすべてのパーツでアヤへの愛を表現している。 「何考えてるの」 「ん~?綺麗やし、幸せそうやなあって。男同士でも、姫とナイトみたいな感じやんな」 「うん……」  イベント好き、お祭り騒ぎが好き、人と集うのが好き、さらには知人にはなんでもオープンにするタイプであるリョウは、本当は自分たちもこういったことがしたいのではないだろうか。アヤは思うが、訊いところでどうすることもできない。  パーティーもお開きの時間となり、二人がゲストを見送る段となった。わらわらと参列者が席を立ち、門では新郎二人が一人一人にお礼を述べている。  アヤとリョウの番となった。ほとんど知り合いでもないもの同士、社交辞令的な挨拶だけ済ませてアヤが立ち去ろうとした時。 「はい、これ」  純白の新郎――姫宮家次期当主であり名を梨人という――が笑顔で花を差し出した。こんなもの、他のゲストには渡していなかったはずだ。 「こちらは……?」  しばし困惑するアヤに、横から漆黒の新郎――元は姫宮家の使用人であり現在は兼・梨人の夫であり、梨人はさきほどから連と呼んでいる――が口を挟んだ。 「ご迷惑でしたら申し訳ありません。梨人様がどうしてもお二人に、と」  差し出された花は、十二輪の赤い薔薇。そう、新郎二人の胸に挿されているのと同じ。上品な香りが鼻腔をくすぐる。 「ありがとう……でもなんで俺らにだけ?」  リョウが素直に疑問をぶつけると、梨人は柔らかく微笑んだ。 「きっとお二人も、同じなんだろうなと思って。ブーケトス代わりに、受け取ってよ」 「こちらはブーケトスの意味合いもありますが、大切な人・恋人に贈ると幸せになれるというダズンローズという花束です。どうかお収め頂きたく」  そう説明を付け加えた連は言葉こそ丁寧だが、コイツがわがまま言ってすみません、と顔に書いてある。それもまた、二人の関係性がにじみ出ていて微笑ましく、心が温かくなるのだった。

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