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第4話
「こっちがサプライズもろてもたって感じやな」
タクシーの中でまじまじと花束を見つめながらそういうリョウは、少し疲れているように見える。無理もない、遠く離れた場所まで来て、自分とは全く無関係の式に参列したのだから、気疲れもしただろう。
――それに。
「ねえ、リョウは」
「ん?」
思い切って口火を切ってみたものの、言葉が続かない。アヤは何度も拳を握りなおし、何度も出かかった言葉を飲み込んだ。
何か言いにくいことを思い切って言おうとしている時にアヤがこうなることを、リョウはもうわかっている。だから、話を急くことも断ち切ることもせず、そのままじっと次の言葉がアヤの口から出るのを待つ。
「リョウは、ああいうこと、したいの」
相も変わらず言葉足らずだが、おそらくアヤは、リョウも結婚式を挙げたりしたいのかと問いたいのだろう。訊きたいけど訊けなかった問いだ。
おそるおそる、リョウへ視線を向けると、蕩けるように微笑んでいた。
「ううん、いくら俺でもそれはないよ。アヤに出会うずっと前から、そういうのはもうとっくに諦めてるから」
嬉しそうに、そして少し可笑しそうにそう答えるリョウ。
「でも、そんなふうに考えてくれて嬉しい。ありがと、アヤ」
俯いてはにかむその表情には、どこかしら影があるようにも見える。
同性しか恋愛対象にならないことを自覚し、大人になっていくに従って、大手を振って堂々とお披露目をしたり、周囲からの祝福を受けたりすることは叶うことのない夢だと、いつの頃からかリョウは悟ったのだった。
「うん……」
そうは言うけど、とアヤはなぜだか胸のつかえがとれない。
「俺はアヤがこの先ずっと一緒におってくれたら、じゅうううううぶん幸せなんやで」
聞き飽きるほど聞いたいつもの台詞を言われて、こっそり手を繋がれて、その温かな手を握り返し、薬指の金属をなぞる。
今、とても幸せだ。それは揺るがない事実だし、おそらくリョウも思ってくれているはず。式なんてどうでもいいはずで。
なのに小骨が引っかかったようなこのモヤモヤは、どこから来るんだろう。
ずっとアヤが押し黙ったままなので、リョウがひょこっと顔をのぞき込んできた。
「どしたん?何考えてんの?」
「……ほんとにこれでいいのかなって」
「えっ」
またもアヤの言葉足らずのせいで、リョウが勘違いしてしまったようだ。悲壮感を顔に貼り付けて、思わず後ずさりするリョウ、と、その様子がなぜなのかわからないアヤ。
「アヤはまたなんかいろいろ考えてんのかもしれへんけど、俺は今めっちゃ幸せやで。ついでに言うたらこの先も、ずっと好きでいてくれたら、こんなに嬉しいことはないし、それだけで充分、やから」
自分に言い聞かせるようにもとれる語尾に、アヤの手にこめた力が強くなった。
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