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君の園 待つ 6
「幸成さん!」
びくぅっと跳び跳ねたせいで、ピンセットがからりと床に落ちる。
「ぇ、あ、あぁ巽くん。どうしたの?忘れ物?」
「忘れ物って…もう帰ってきたんですよ」
「え!?今何時!?飯…あ!花見どうだ……」
慌てて立ち上がった幸成さんの膝からはらはらと舞い落ちる。
「わっ」
急いでそれを拾おうとテンパるから台の上の物まで落として…
「ぅわっわっ…あぁっ」
「何やってんすか」
はぁと溜め息しか出ない。
「ほら、片付けるから避けて」
床に散らかった小さな欠片を拾い集める。
一つ一つ、掌に降り積もるように見えるそれに思わず笑いが漏れた。
「な…なんだよ」
ふと視線を移した先の作業台。
先程まで固い蕾を見ていただけに、爛漫と咲き誇るその姿は鮮やかで…
美しいつまみ細工の桜簪に思わず見惚れた。
「す、げー綺麗」
「え?あぁうん。一緒に花見行きたかったなって思って…作ってみた」
手に取ると、シャラリと銀ビラが音を立てる。
花弁一つ、
葉の一枚、
彼の不器用な指がこれを作り出す。
満開の桜よりも目を引いた存在感に、うっとりとなる。
固い蕾の桜より、よほど手の中の物の方が桜らしい。
「季節ものだろ?」
「花全然咲いてなくてさ」
「そうだったんだ、じゃあまた見に行こう」
「んー…」
一足早く、貴方がくれた桜を愛でる。
不器用なのに、花を産み出すことのできる貴方が愛しくて。
そっと身を乗り出した。
踏み込まれて困り顔にちゅっと口づける。
「っ!?」
「幸成さん、好きだよ」
外に咲き誇る桜もいいけれど、
貴方がいればきっと
いつだって
どこだって
春爛漫だ…
END.
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