9 / 205

君の園 待つ 6

「幸成さん!」  びくぅっと跳び跳ねたせいで、ピンセットがからりと床に落ちる。 「ぇ、あ、あぁ巽くん。どうしたの?忘れ物?」 「忘れ物って…もう帰ってきたんですよ」 「え!?今何時!?飯…あ!花見どうだ……」  慌てて立ち上がった幸成さんの膝からはらはらと舞い落ちる。 「わっ」  急いでそれを拾おうとテンパるから台の上の物まで落として… 「ぅわっわっ…あぁっ」 「何やってんすか」  はぁと溜め息しか出ない。 「ほら、片付けるから避けて」  床に散らかった小さな欠片を拾い集める。  一つ一つ、掌に降り積もるように見えるそれに思わず笑いが漏れた。 「な…なんだよ」  ふと視線を移した先の作業台。  先程まで固い蕾を見ていただけに、爛漫と咲き誇るその姿は鮮やかで…  美しいつまみ細工の桜簪に思わず見惚れた。 「す、げー綺麗」 「え?あぁうん。一緒に花見行きたかったなって思って…作ってみた」  手に取ると、シャラリと銀ビラが音を立てる。  花弁一つ、  葉の一枚、  彼の不器用な指がこれを作り出す。  満開の桜よりも目を引いた存在感に、うっとりとなる。  固い蕾の桜より、よほど手の中の物の方が桜らしい。 「季節ものだろ?」 「花全然咲いてなくてさ」 「そうだったんだ、じゃあまた見に行こう」 「んー…」  一足早く、貴方がくれた桜を愛でる。  不器用なのに、花を産み出すことのできる貴方が愛しくて。  そっと身を乗り出した。  踏み込まれて困り顔にちゅっと口づける。 「っ!?」 「幸成さん、好きだよ」  外に咲き誇る桜もいいけれど、  貴方がいればきっと  いつだって  どこだって  春爛漫だ… END.

ともだちにシェアしよう!